課長風月

疲れたサラリーマンの憩いのひと時

読書「向日葵の咲かない夏」道尾秀介

道尾秀介さんの長編ミステリー。うちの奥様がYoutubeのショート動画でお薦めされていたということで図書館で借りてきた本である。隣で「ええ~!?」とか「うそ~!?」とか言いながら読んでいたので多分面白いんだろうなと思って読んでみた。

 

結論としては・・・間違いなく面白い。が、読むと何かを削られた気分になるちょっと危険な小説であった。平穏無事を至上とする中年にはちょっとキツイ。

 

※以降、ネタバレないよう気を付けて書きましたが、内容には触れるので未読の方はご注意ください。

 

小学4年生のミチオは、学校を休んだ同級生のS君の自宅にプリントを届けに行くが、そこで首を括ったS君の死体を発見する。しかし、その後刑事と共に現場に行った担任教師は死体が見つからなかったと言う。S君の死体はどこへ行ったのか?

 

道尾さんの小説を読むのはこれで3作目なのでその作風は存じ上げていたが、本作もまた道尾さんならではの陰鬱さに満ちている。夏が舞台の小説ではあるが、夏ならではの明るさ、さわやかさは皆無。うるさい油蝉の鳴き声、ゴミに溢れた家に漂う腐臭、そしてS君の死を見つめるたくさんの向日葵たち。まあ、とにかくこれでもかと不快な夏を演出してくれる。

そして、メインの事件と並行して発生する犬や猫の連続殺害事件。これがキツイ。人間が殺される小説はフィクションとして問題なく楽しめるのに、ワンちゃんやネコちゃんが酷い目に合うのは耐えられないのである。なぜだろう。

 

あとまた気分を重くさせるのが、人間の描き方である。この小説の主要な登場人物はほぼ全員異常者だが、決して理解不能サイコパスばかりではない。自身で解決できる範囲を超えた強いストレスに、やり場のなくなった感情が外部への残酷なふるまいとなって現れる。ここの心の弱さの描き方にはリアリティがあり、自分も余裕がなくなった時に、果たして理性的でいられるだろうか?と不安になる。

 

とまあ、いろいろイヤな点ばかり書いてきたが、この小説のトリックには掛け値なしにびっくりさせられた。今まで見えていたはずのものがひっくり返る感覚。奥様と全く同じように「ええ~!?」みたいな反応をしてしまい、ニヤニヤされてしまったのである。それも一つではなく、いくつもいくつも仕掛けられている。この醍醐味が味わえる小説は多くはないと思う。

 

なんだかんだと面白かったし読んでよかったと思う。でも道尾さんの小説はしばらくいいかな・・・。冒頭の繰り返しになるけれど、中年の弱った免疫力ではダメージが大きい。でも、そのうち忘れた頃にまた読みたくなるんだろうな。