課長風月

疲れたサラリーマンの憩いのひと時

読書「プリンセス・トヨトミ」万城目学

万城目学さんの長編小説。500ページ超と長かったけど、楽しかった。

 

※以下、核心部分のネタバレはしないように書きますが、内容には触れますので未読の方はご注意ください。

東京から大阪にやってきた会計検査院の調査官三人と、大阪の中学校に通う幼馴染の男女。彼らに起因して起こった「大阪全停止」事件の一部始終を描く。

 

万城目さんの作品を読むのは「鴨川ホルモー」「鹿男あをによし」に次いで三作目。私は2023年下半期直木賞の受賞で初めてそのお名前を知ったばかりのにわかファンである。身近な現代を舞台にしつつも、京都や奈良の歴史風味に奇想天外なファンタジーを混ぜこんで、笑って泣けるエンターテインメント作品に仕上げるその作風が大好きなのである。

 

本作の舞台はタイトルからもわかるように大阪。万城目さんの「関西三部作」の一つとのことで、楽しみに読み始めた。

 

序盤は、三人の調査官の話と、中学生男女の話が交互に語られる。

 

調査官たちの中で、私が一番好きなのが鳥居調査官である。表紙絵でいうと背の低い、少々小太りな男性である。鳥居の他二名は、「鬼の松平」と呼ばれる辣腕調査官の松平と、フランス人と日本人を両親に持つ長身美女の旭・ゲンズブール。それぞれいい味出したキャラなのだが、この鳥居は別格で面白い。

松平と旭はそれぞれ国家公務員一種をトップで合格するような、優秀な人物なのだが、鳥居はそれとは真逆で切れ者要素は一切ない。しかし妙な才能によって会計検査院に数々の奇跡を起こし、「ミラクル鳥居」と言われている。本書の主要ストーリーの中でも、この鳥居はキーポイントになっており、彼が無自覚に引き起こす奇跡が楽しみどころである。

 

もう一方の中学生パートも魅力的だ。空堀中学校二年生の大輔はいわゆる性同一性障害を抱えており、ある日セーラー服を着て学校に登校することを決意する。幼馴染の茶子は大輔を心配しつつ見守るが、案の定学校で大騒ぎになってしまう。それでも、女の子になることだけを夢見て生きてきた大輔はセーラー服での登校を続けようとするが、不良の先輩・蜂須賀に目をつけられてしまい、酷い目にあわされてしまう。怒った茶子は、単身で蜂須賀への仕返しを企てる。

この茶子の暴走ぶりが痛快で、大輔を酷い目にあわすということは女の子を酷い目にあわすことだ!と正義感のみで突っ走る。行動自体は少々短絡的だが、大輔をいかに大切に思っているかは強く伝わってくる。

あと、大輔を取り巻く周りの大人たちも良い。セーラー服を着た大輔を見ても、決して腫物に触るような感じにはならず、程よい言葉をかけるのである。関西弁の持つ独特の暖かみやおかしみが、深刻になりすぎない効果を与えているように思った。

 

さて、物語の核心は「プリンセス・トヨトミ」とは何か、なぜ大阪が全停止してしまう事態になったのか、上で上げた登場人物たちがどうそれに絡んでくるのかということだが、ネタバレになってしまうので詳細は書かない。ただ、個人的には「楽しいほら話」という言葉がぴったりくると思っている。まあ絶対フィクションなんだけれども、もし本当にそうだったら面白いなぁ、という話である。