課長風月

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読書「神の守り人」上橋菜穂子 およびこれまで読んだ守り人シリーズについて  

上橋菜穂子さんのファンタジー小説守り人シリーズの5巻目と6巻目「神の守り人」来訪編と帰還編を読んだ。これまで少しずつ読み続けていたシリーズものだが、このブログで書くのは初めてなので、最初にこのシリーズ全体について書いた後、「神の守り人」の感想を書く。

 

※今回はネタバレありの感想なので、未読の方はご注意ください。

 

上橋菜穂子さんの守り人シリーズは長編10巻、短編3巻が出版されているファンタジー小説である。分類上は児童書で、1巻の「精霊の守り人」が刊行されたのが1996年というから、今の30代くらいまでの方々は、子供のころの愛読書となっていたかもしれない。50代の私は最近知ったばかりである。

 

指輪物語』のように、想像上の一つの世界で物語が進行するハイ・ファンタジーである。最近流行りの転生もののような、現実世界とのつながりはない。また、ファンタジー小説は中世ヨーロッパ風世界が定番だと思うが、本作はどこか東洋を思わせるような世界となっている。

 

上橋さんは文化人類学者でもあり、その知見が作品世界に存分に生かされているようだ。私は専門的なことはわからないけれども、確かにこの世界には独自の文化があり、宗教があり、それぞれの気候に適した生活習慣や、食べ物がある。物語の筋を追うだけでなく、こういうディティールを拾うのも楽しい小説である。

 

世界設定は奥深いが、現代の児童に向けて書かれているためか、決してとっつきづらさはない。ストーリーも面白く、キャラクターも魅力的で楽しく読める。また、対象読者が子供ではあるが、むしろ、現実世界の日々の些末事に追われている大人の方が、この世界に新鮮な感動を覚えるのではないだろうか。少なくとも私はそうだった。

 

主人公は三十路の女用心棒・バルサである。凄腕の短槍の使いでとんでもなく強いが、悲しい過去に囚われており、決して幸福とは言えない。表面的には愛想のよい方ではないが、根は暖かい心を持っており、自身の境遇からか不遇な子供を放っておけない。

 

以下、ざっと「神の守り人」の前までの巻をさらっと紹介する。

 

1.精霊の守り人

舞台は古代日本を思わせる新ヨゴ皇国。実の父でもある皇帝に暗殺されそうになった新ヨゴ皇国の第二皇子であるチャグムを、偶然通りかかったバルサが助けたことがきっかけで護衛をすることになる、という物語である。

目に見えない精霊の世界「ナユグ」や、先住民族ヤクーに伝わる伝説が伝える真実など、本格ファンタジーの醍醐味を存分に味わえる。また、旅の進行により深まるバルサとチャグムの間の母子の情とも呼べるような絆や、バルサの幼馴染である呪術師タンダと、その師匠トロガイという、後に続く主要登場人物たちとの暖かい関係性が心に沁みるとっても良い作品なのである。

 

2.闇の守り人

チャグムと別れたバルサが、自身の故郷であるカンバル国を訪ね、バルサ自身の過去と向き合う話である。終盤の展開はこれぞファンタジーという素晴らしいもので、シリーズ中で今のところ私がもっとも好きな作品である。

 

3.夢の守り人

精霊の守り人」でも登場した呪術師トロガイの過去に焦点を当てた作品である。トロガイは大呪術師としてその名を畏れられているが、実態は口が悪く、人を食ったような冗談好きのオモロイおばあちゃんなのである。そのトロガイ師のちょっと悲しく切ない過去が描かれる。シリーズの中ではやや難解に感じる面もあるが、楽しめる作品である。

 

4.虚空の旅人

タイトルが「守り人」ではなく「旅人」となっているのは、本作は主人公がバルサではなくチャグムだから。舞台は新ヨゴ皇国の南方にある、海の国サンガル国。14歳となったチャグムの頼もしく成長した様に思わず顔をほころばせてしまう作品である。「シリーズを大河物語へと導くきっかけとなった」作品らしいが、私の読んだところまでだとまだそれが何なのかはわからない。これから楽しみである。

 

さて、すっかり前置きが長くなった。

「神の守り人」来訪編と帰還編である。今回の舞台は、新ヨゴ皇国の西に位置するロタ王国。バルサは、このロタ王国で差別的な扱いを受けている少数民族「タルの民」の兄妹を、偶然助けることになる。

 

兄チキサは14歳、妹アスラは12歳。二人とも善良な心を持つ子供であるが、どうやらロタ王国東部のシンタダン牢城での虐殺事件に絡んでいる様子である。ロタ王国内部の政治的な勢力争いも絡んで、この兄妹を殺そうとする人々、利用しようとする人々、そして、彼らを守ろうとするバルサとタンダ。様々な思惑が絡み合いながら、物語が進んでいく。

 

本作は、これまで読んできたシリーズの中でもとりわけ考えさせられる物語であった。

 

本作の舞台となるロタ王国は、決して豊かな国とは言えない。そして、比較的裕福な南部と、厳しい環境で暮らす北部の氏族たちの間で対立がある。そしてまた、少数民族タルへの差別の問題もある。タルの民たちは、過去の為政者たちによる取り決めによりその状況にじっと耐えているが、当然不満が溜まっている。国王ヨーサムの善政により何とか国は均衡を保っているが、危ういと言わざるを得ない。

 

そんな状況に終止符を打ちたいと願う一派が、チキサとアスラの兄妹を利用しようとする。アスラは気弱でやさしい少女であるが、〈畏ろしき神〉タルハマヤを身に招く力を持っており、その力は大勢の人間を一瞬で殺害できる力を持っている。この力を使って、一気に国を安定させようというのである。

 

バルサは、これを明確な強い意志で阻止しようとする。幼いアスラを政治に利用し、人殺しをさせようとしていることが、どうしても許せないのである。それは、政治のために少女時代を奪われ、復讐のために人を殺す能力を身に着けることに人生を費やしてしまった自身への悔いがベースとなっている。

 

少し引いた目でみると、本書が扱っているのは、国の政情の安定化のためならば、少数の犠牲(それも子供の)はやむを得ないと言えるかどうか?という問いであり、また強力な武器(例えば核兵器のような)を保持することで国家を安定させることの是非を問うものではないかと思っている。

 

心情的にはNoであるし、作者のメッセージもやはりNoなのだと思っている。ただ、「子供だからNoなのであって、大人ならいいのか?」とか、「これによってもっと多くの人々を救えるとしたらどうか?」などと考えると、心が揺らいでくるのである。こういう決断を下す状況になりませんように、と祈るくらいしか、自分にはできそうもないのである。

 

長くなったのでこの辺にする。「考えさせられた」ことを中心に書いてしまったが、ストーリーは面白く、読んで楽しめる作品であったことは間違いない。

続きも楽しみである。

 

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