夕木春央さんによる、大正時代が舞台のミステリー短編集。元泥棒の蓮野と画家の井口のコンビによるシリーズもの二作目。前作「絞首商會」同様、皮肉の効いた笑いを散りばめた楽しい作品だった。
夕木春央さんの作品を読むのは現代ものの「方舟」「十戒」、大正ものの「絞首商會」に続いて四作目。夕木さんは「方舟」の強烈なインパクトで一気に有名になった方だと思うが(実際、自分も「方舟」でお名前を知ったわけだが)、こちらの蓮野・井口シリーズもとても好きである。
本作の6本の短編はどれも粒ぞろいだが、あえて1本「光川丸の妖しい晩餐」を紹介する。
海運会社の社長・広川は、悪趣味な秘密クラブを主催している。その企画として、貨物船・光川丸の船上で虎料理の晩餐会を催す。しかし、生きた虎二匹が料理されるのを待つ間、掃除婦の照枝は参加者の一人である新聞記者・南の死体を発見してしまう。照枝は慌てて社長を呼ぶが、戻ってみると死体が消えている。社長は照枝の言葉を信じず、南はボートで一人帰ったのだと言う。殺人犯が潜んでいることの恐怖に駆られた照枝は、南の行方を気にしていた蓮野、井口、大月の三人に状況を打ち明ける。
光川丸という船を舞台にしたクローズドサークルミステリーだが、なんともゲンナリするような設定である。成金が集まって、船上で生きた虎を解体して料理をして食べようというのである。大正時代が舞台なのでワシントン条約などは当然結ばれておらず違法ではなかったかもしれない。しかしわざわざ虎など食べる必要があるはずもなく、単に背徳的で妖しいムードを味わいたいだけなのである。
そんな秘密クラブに所属している登場人物たちは、揃ってろくでもない人々ばかりであり、誰が犯人でも不思議ではない。物語は、唯一普通といってよい照枝の視点で進んでいくが、夜の暗い船内に石油ランプの明かり、閉じ込めらているが生きている虎、信用できない人々、そして不審な殺人事件と、照枝の心細さが伝わってくる。
そんな中で照枝の味方となる蓮野、井口、大月のトリオは妙に頼もしい。蓮野、井口はいわゆるホームズとワトソンでレギュラー登場人物だが、本書の短編の中では唯一、井口の知り合いの画家・大月が登場する。大月は、前作「絞首商會」でも登場した奇天烈キャラで、笑わせにかかってくる。
本作は謎解きも秀逸だったと思う。道徳的には絶対NGなんだけど、犯人からすると至って合理的に行動しているところが面白い。一般的な善悪の感情を持っている人なら到底思いつけないような行動を、蓮野が顔色一つ変えずに淡々と推理して、犯人をバッサリ暴くのが心地よい。雰囲気はおどろおどろしいが、妙にカラっとして読後感も悪くないのはこういうところに因っているのかなと思った。
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