課長風月

疲れたサラリーマンの憩いのひと時

読書「ボタニストの殺人」M・W・クレイヴン

ワシントン・ポーシリーズの5番目。続編が出る度にページ数が増えて、今回はついに上下分冊。でも、相変わらず長さは全く気にならない面白さだった。

 

※決定的なネタバレはしませんが、内容には触れるので未読の方はご注意ください。

テレビの討論番組の生放送中に、出演していた女性差別主義者が突然倒れ、息を引き取った。同じころ、ワシントン・ポーは友人の天才病理学者のエステル・ドイルが父親の殺害容疑で逮捕されたという知らせを受け取っていた。エステルが犯人だと信じられないポーは、「個人的に」捜査することを決意するが、先の女性差別主義者殺害事件も捜査をしなければならない。二つの不可能犯罪の解明に、ポーとティリー、そして職場復帰したフリン警部が挑む。

 

 

なんと1ページ目が「日本、西表島」で始まる。夫婦でこのシリーズの大ファンである我々夫妻は、ここを読んで口をあんぐり開け、しばし呆然としたのである。

 

ティリーが豆腐や緑茶といった日本の食物を食べるシーンは、これまでの4作の中でしばしば描写されていた。そのため奥様は、しばしばポーとティリーが日本に来たらという妄想を口にしており、本場日本の豆腐料理をティリーが絶賛し、(脂と塩分たっぷりのジャンキーな食べ物を好む)ポーが毒づくシーンを思い浮かべていたのである。もしかすると、妄想は既に実現していたのか?

 

完読してみると、残念ながら二人が来日するわけではないことはわかった。でも、事件には関係しており、日本のファン的にはやはり登場してとても嬉しい。日本でも人気があることはおそらくご存知だろうと思うので、これはファンサービスだと信じている。

 

本作の事件は大きく分けて二つの柱がある。

 

一つ目は、エステル・ドイルの父親が殺害された事件である。しかも容疑者はエステル・ドイルでありこれまでのシリーズを読んできた我々には、彼女が犯人とは全く信じられないのだが、状況証拠はすべて彼女の犯行であることを示している。そして「雪についた足跡」が一つしかないことが、彼女以外に犯人がいないことを示している。非常に古典的な密室殺人をあえてぶつけてくるところに、作者の意欲を感じる。

 

そして二つ目は、「ボタニスト」という殺人鬼による連続殺人事件である。犯人は早々に明かされるので、いわゆるフーダニットの推理小説ではない。ただ、明確な殺人予告をした上で、警察を含めた衆人環視の元であっさり殺人を成功させてしまう。舞台装置から余計なものをそぎ落とし、絶対不可能と思われる状況でやってのける殺人は、シンプルだけどまるでどうやっているかわからないトランプマジックのような不思議さを植え付けられる。

 

この二つの難事件を、ポーは行ったり来たりしながら操作を進めていく。どちらも謎解きの面白さに引っ張られてぐいぐい読まされる。

 

そして、連続殺人事件の被害者がいちいち強烈である。女性差別主義者、ひとでなし議員、極右の陰謀論者。不愉快な人々だが、今の世の中、普通に居そうだなと思える絶妙な塩梅である。そしてまた、こういう不愉快さに興味を惹きつけられてしまうのも真実であり、これがまたページをめくる手を止まらなくさせる。

 

長くなってしまったのでこの辺にするが、続編がいくつ出ても一向に面白さが衰えないのがこのシリーズのすごいところである。現在、翻訳されているワシントン・ポーのシリーズはこれが最新刊で、昨年の8月頃に刊行されているようだ。本国の英国ではすでに続編が出ているようだが、翻訳版もだいたい1年に1冊くらい出ているので、もしかするとそろそろ続編の翻訳版も発売されるだろうか。楽しみだ。

 

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