秀吉の計略で関東に転封させられた家康が自ら拠点と定めたのは、まさかの江戸城。当時の江戸は萱原で、度々水害に見舞われる貧しい土地だった。江戸の将来性に賭けた家康に命じられ、都市造りの実務を担った家臣たちの物語。
最近、江戸時代大好きである。江戸に関する本を読み、大河ドラマを欠かさず見て、週末は東京の街を歴史散歩し、Youtubeで落語や小唄を聴いている。本に書かれた場所に行って散策し、そこで目にしたものが別の本に書かれていたりして、知識がつながってくる感覚がある。こうなってくると面白くなってくるもので、もっともっと知りたくなってしまう。
そんな中、家康による江戸の都市造りを小説にした本があると聞いた。門井慶喜さんの「家康、江戸を建てる」である。門井さんの本はこれまで四冊読んだが、先日ブログにも書いた「東京、はじまる」は傑作だった。これは期待が持てそうだと思って図書館で借りてきたのである。
全部で五話から成り、一つ一つのお話は独立している。「家康、江戸を建てる」というタイトルだが、主人公は家康ではなく、家康から命を受けた人々の物語である。
人選はかなり渋い。
第二話、貨幣鋳造がテーマ、主人公は橋本庄三郎。
第三話、上水道の敷設がテーマ、主人公は大久保藤五郎と内田六次郎。
第四話、江戸城の石垣積みがテーマ、主人公は見えすき吾平。
第五話、江戸城の天守閣建設がテーマ、主人公は二代将軍徳川秀忠。
最終話の徳川秀忠以外、読む前は名前を知らなかった。家康の家臣というと、やはり本多忠勝とか酒井忠次とか、戦国時代を生きた武将たちの方が知名度があるように思う。本書の主人公たちは、戦から平和への時代の転換点を担った文官や技術者である。少々地味と言わざるを得ない。
しかし、やっていることはかなりの大事業である。
例えば、第一話は当初江戸湾に注いでいた利根川の流れを曲げて、銚子の方に流すという話である。これにより、度々利根川の氾濫で沼地のようだった江戸城の東側を作物の実る豊かな土地にし、物資が集積する商業都市に変えたのである。そもそも、当時の技術でそんなことをしようと発想することがすごいし、それをやりきるのもすごい。第一話の主人公は伊奈忠次と書いたが、当然、彼一代で完成したわけではなく、伊奈家の人々が親の意思を、祖父の意思をと代々次いでいって、ようやく成し遂げたのである。彼らの奮闘に、自然と目頭が熱くなる。
また、単純な成功ストーリーばかりではない。そこには紆余曲折があり、最初の意図とは異なるけど、結果的にそうなってしまった、という類の話もある。この点の意外性が、完全フィクションの小説とは違った、歴史小説の魅力だと思う。もちろん、それを意外だと思わせ、面白く読ませるのは、小説家としての語りの巧さだと思う。
↓よかったらクリックお願いいたします
