2027年大河ドラマの主人公・小栗忠順を描く歴史小説。感情を極力排し、まるでノンフィクションのような読み応えの硬派な作品であった。
本書を手にとったきっかけは、以前読んだこちらの新書「江戸三〇〇藩 最後の藩主」で小栗の名前が出てきたことであった。恥ずかしながら、初めて知った名前である。
「江戸三〇〇藩~」に小栗が登場したのは上野国高崎藩を解説した箇所。小栗は幕末においては一貫して幕府側の人間で、王政復古の大号令で幕府が消滅した後、官軍によりこの地で捕縛され、斬首された。
「幕府絶対主義の正統派後継者」「新政府にとって最も警戒すべき存在だった」という記述に少々興味をもってネットで調べてみたら、再来年の大河ドラマの主人公だとわかったのである。何たる偶然。予習のため、小栗が主人公の小説がないかと調べた結果、上がってきたのがこちらの「覚悟の人」であった。
ちなみに「江戸三〇〇藩~」の著者である八幡和郎氏は、あとがきで「幕末維新史は、どの時代よりも歴史小説と時代劇によって歪められて理解をされている」「正しく歴史を知りたければ、歴史小説は読まない方がよい」と書いている。まあ、その通りなのだろうけれども私はなるべく小説を通して歴史を知りたいと思っている。やっぱりプロの小説家の文章は、読みやすいし飽きさせない。フィクションと割り切って鵜呑みにしないようにすれば充分だと思っている。
前置きが長くなった。
本書で語られるのは、幕末の1859年から1868年。日米修好通商条約の批准書の交換のため、アメリカに送られる使節団の一人として小栗が任命されるところから、大政奉還・王政復古の大号令を経て、高崎で命を落とすまでの9年間を描いている。
小栗が何をやった人なのか?一言で説明するのは難しい。外交官のようにアメリカ、ロシア、フランスなどとの交渉にあたったり、幕末における幕府の財源を確保するための勘定奉行であったり、陸軍奉行として陸軍の訓練をしたり、はたまた横須賀に製鉄所を作るのに尽力したりしている。
様々な職務についている小栗であるが、一貫しているのは常に幕府側の人間として、幕府のために行動していることである。そして計数につよく、経済がわかり、実務的に有能な人物である。反面、政治はあまりうまくなさそうである。上役の老中や一橋慶喜に対しても、間違っていると思ったことは直言し、煙たがられる。それにより何度も罷免されるが、有能なのでまたすぐに何らかの役職に戻されるのである。
本書を通して読んでみると、小栗が行った施策はアイデアはよくても、実はほとんど空振りに終わっており、結果が出ていないことに気が付く。だがそれは、たいていが優柔不断な上役により却下されてしまったためであり、もしも小栗の策をとっていたら歴史は変わっていたかもしれない、と思わせる。
まあ、結局は結果が出ずに敗けてしまっているわけなので、あんまりタラレバで評価するのもどうかとは思うのだが、有能で一本筋が通っていて、信念のためなら上層部とぶつかるのも辞さない小栗が魅力的なのは間違いのないところ。
あと、本書は小栗を取り巻く政治・外交の嫌らしさがこれでもかと描かれる。日本と諸外国の間の、金と銀の交換レートの違いをわかっていならがらすっとぼけて儲けようとたくらむアメリカ総領事のハリス。対馬にやってきてなんだかんだと難癖をつけ、怒らせて戦闘に持ち込もうとするロシア船艦長のビリレフ。生麦事件のどさくさに紛れて法外な慰謝料をふんだくろうとするイギリス。そして、「卑怯で無責任」な一橋慶喜。読んでいてイライラさせられっぱなしである。当時の政治や外交の世界って本当にこんな感じだったのだろうか。もしかすると、過去の話でもなく現代でもこんな感じなのだろうか。
しかしながら、そこに我らが小栗がやってきてスカッと溜飲を下げる・・・という展開にならないのが本書のリアルなところ。このやるせなさ。小説なので脚色は入っているのだろうが、ありのままの現実を見せられているような気分になる。
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