大正時代を舞台に、実在の人物を登場させたミステリー短編集。ものすごく面白い、というわけではないけれど、軽い読み心地の肩が凝らないミステリーという感じで楽しめた。
※決定的なネタバレはしませんが、内容には触れるので未読の方はご注意ください。
青柳碧人さんの作品は初読み。お名前自体は前々からなんとなくと知ってはいたのだが、先日「乱歩と千畝―RAMPOとSEMPO―」が直木賞候補となったことで意識し始めたところ、図書館で本書を見つけて手に取ったのである。
表紙絵を見るとわかるように、野口英世、芥川龍之介、与謝野晶子など実在の人物をキャラクターとして使っている。ちなみに、左から二番目が実はよくわからなかったのだが、後で調べたら宮沢賢治だった。このポーズの写真と銅像が残っていることは分かったけど、もっと丸顔じゃなかったっけ?あと、真ん中の犬は忠犬ハチ公。これは目次に「駅の共犯者」というタイトルがあることからわかった。
他にも何人も実在の人物が出てくるが、いくつかの短編ではその人物名自体が謎になって最後に明かされる。これはいったい誰のことなんだろう、と推理しながら読むのが楽しみの一つである。
一番心に残った、最後の一本「姉様人形八景」のみを少し紹介する。
昭和三十一年、平塚らいてうは新聞社のインタビューを受けるため、東京駅近くの大丸デパートに来ていた。その時催事場では、山下清の展覧会が催されており、なぜか新聞社から絵の感想を求められる。
宣伝に使われたかと呆れつつ作品を見ていたが、ふと一つの貼り絵に目が留まる。浜辺で寄り添って船を眺める二人の女性の絵。らいてうは、この絵に自分と、かつて愛した女性の姿を重ねていることに気が付く。
清にこの絵が何を表したのかとたずねるが、自分のイメージに浮かんだものを絵にしただけだと要領を得ない。しかし、貼り絵に使った千代紙は、とある女性にもらった姉さま人形のものだという。
実はこの姉さま人形、ここに至るまでに何人もの女性の手に渡っていた。物語は、その経緯を少しずつ過去に遡っていく形で語られてゆく。
大正という時代に、女性の自由のためにらいてうが創刊した「青鞜」という雑誌と、そこに関わった人々のちょっと切ない話であった。
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