10月下旬に発売されたばかりの、恒川光太郎さんの最新作。いや~、痺れた。ほんとに良かった。今年読んだ本でベストかも。
※決定的なネタバレはしませんが、内容には触れるので未読の方はご注意ください。

サリュザ島で平穏に暮らしていた五歳の少年、スレイの身にある日災難が降りかかる。エルテカ王国という大国の兵士たちにスレイが住む村が襲撃され、父親は目の前でエルテカの白髪の男に殺される。スレイは太陽神の生贄とされるために連れ去られたのだった。しかしある晩、生贄の館に閉じ込められたスレイの前に、ヘルマスという謎の女があらわれる。ヘルマスはスレイをこっそり館から連れ出し、自宅に連れていく。そこにはスレイと同様、生贄になる寸前にヘルマスに救出された子供たちが暮らしていた。
このブログで恒川光太郎さんの作品について書くのは今回が初めてだが、もともと大好きな作家でこれまで9冊読んでいる。恒川さんはデビュー作の「夜市」で第12回日本ホラー小説大賞を受賞している。そのためホラー作家のイメージが強いと思う。ただ、実際作品を読んでみると恐怖一辺倒ではない。なんとも不思議で不気味な世界ながら、そこはかとない郷愁やユーモアが滲み出る。そして物語は独創的で、一体どこに連れていかれるのか全く読めない。人を選ぶかもしれないが、好きな人はハマる作家だと思う。
そんな恒川さんが、3年ぶりに新作を出すと聞いて、普段は図書館派の私が今回は発売日の3日後くらいに書店で購入したのである。(てっきり新刊なので平積みされているかと思ったが、私が行った有隣堂では棚に1冊在庫があるだけであった・・・)
購入した書籍はとても分厚く、600ページ以上あった。短編を得意とするイメージだったので意外であった。そして帯に記された「マヤ文明×冒険小説」の文字。歴史ものかなぁ。空想上の異世界が舞台の小説が多い恒川さんからすると、これも意外である。今回は一味違う作品だなと思い、読み始めたのである。
マヤ文明では、宗教的な意味合いで人を生贄とする儀式が行われていたようだ。強大な軍事力を持つ大国・エルテカ王国では、神に生贄を捧げることが作物の実りを豊かにし、国を富ませ、引いては王の権威に通ずると信じられていた。物語は、横暴なエルテカ王と、それに対する抵抗勢力との対決を主軸に進んでいくことになる。
前半までは、幼い子供たちを生贄にする野蛮で迷信深い古代の王国を悪者にし、新しい考え方を持った人々がそれを打倒する物語だろうと思って読んでいた。そして冒頭出てきたスレイが後々反乱軍のリーダーになるのだろうと。
そう思うと、少々予定調和気味というかいささか使い古された構図だなあと思っていたのである。まあ、それなりに面白いのだけれど、少々物足りない気もするなと。
しかし、半分を過ぎたあたりから、善悪とか、新旧とかそんな単純な二項対立の物語ではなかったことに気が付く。いや、確かにエルテカ王国を打倒する物語ではあるのだが、そこが必ずしも主眼ではないというか。本書の主役と呼べる登場人物は四人いるが、それぞれみな逆境で人生をスタートしている。例えば冒頭で書いたスレイのように、生贄にされかかり、偶然生き延びるといったような。そんな人々の生き様を描く物語、という言い方がしっくりくるだろうか。うまく言えないけれども、必死に生きながらも、必ずしも自分の生には執着していないような。
特に、主要登場人物のうち一人には本当に感動した。ネタバレになってしまうのでそれが誰かは書きたくないのだけれども、この登場人物の存在が、この作品を一段崇高なものにしていると思う。何度もそのシーンを思い出し、反芻して噛みしめている。
最後に、本書の冒頭を引用する。全部読み終わってからここを読むとまた格別の余韻に浸れるのである。
その大地では、数多の文明が現れては消えていった。人々は自然に結集し、都市を作り、そしてる時期がくると都市を捨て、移動した。文明はまるで花のように、あちらで開き、そして散り、こちらでまた花開き、そして散った。人々が去った後には緑に呑まれた文明の痕が残った。
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