神林長平さん初読み。星雲賞を何回も受賞している日本の代表的なSF作家の作品ということで、期待して読み始めたが・・・。最後の方は少し面白かった。でも、全体としては微妙だった。というのが正直な感想である。最初に読むべき作品ではなかったかもなー。
※決定的なネタバレはしませんが、内容には触れるので未読の方はご注意ください。

月でアンドロイドの製造・販売を行う大企業LAP社に、地球から来たノンフィクション作家、リビー・ホワイトは抗議のために乗り込んだ。LAPが製造したパパ・ママ・アンドロイドに養育される少年・ポールはLAPの実験台にされており、人権が阻害されているというのである。LAPでポールの養育部主任を務めるツバイは、リビーを追い返したのち、要注意人物として監視を始める。ポールはLAP社のアンドロイドの優秀さを示す広告塔であり、人権には何も問題がないというのがLAPの見解である。しかし、ポールには公にできない秘密があった。月には月面で暮らす月人の他に、地下で暮らす「ルナティカン」と呼ばれる人々が存在していた。ルナティカンは、税金も納めない代わりに人権もなく、汚い存在として月人から差別を受けていたのである。そしてポールはルナティカンの子供であった。これはLAPにとってスキャンダルで、公にしたくない事実であった。この事実を知ったリビーは、ポールをLAP社から引きはがすため、ポールに接触をしようとする。
本書は、今年の5月に、神保町の古書店@ワンダーで購入したもの。神林長平さんの名前はちらほら目にしていて、一度読んでみたいなと思っていたところ、本書に出会ったのである。この時はアシモフのファウンデーションシリーズを読み終わった後で、割とSFづいていたのだけれど、その後、日本史の方に興味が向いてしまい、長らく積読状態であった。
私が読んだ文庫は2003年刊のものだが、オリジナルは、1988年に出版されたもの。つまり、37年前の作品である。
アンドロイドに子供を養育させることの是非というテーマは、現在のAIの発展ぶりを見るとそれほど遠くない将来、現実に直面しそうである。国語算数理科社会みたいな、教科の質問をAIに投げるくらいのことは、現代の子供たちなら普通にやっていそうである。ただ、子育てを全面的にAIに任せる、ということになったらやっぱり心配だよなー。いったい、どういう人間に育つのだろう。先日、ネットニュースで「最近の若者はAIに悩み相談をしている」という記事を見かけたけど、こういう話の延長線上にある気がする。AIが人間にどういう影響を与えるのか?良いのか、悪いのか、誰にもわからない。だからこそ、不安で心配である。
さて、本書ではどう描かれているか?アンドロイドに育てられた少年・ポールはとんでもない悪ガキになっている、という設定である。LAP社の広告塔として育てられたポールは幼いころから特別扱いされ、わがまま放題で、LAP社の大人たちも強く注意することができない。サッカーボールを、スーパーの自動ドアが開いたところに蹴りこむ悪戯とか、周囲の迷惑を全く省みない。ただ、これはアンドロイドに育てられた影響というよりは、LAP社の大人たちの問題に思える。
そして、外では悪ガキのポールも、家の中ではよい子にしていて、パパ・ママ・アンドロイドのことを本当の親として心底慕っているのである。自分がルナティカンの子供だと知って気持ちが揺れ動きながらも、「おやすみなさい、ママ、パパ。ぼくはママのことが大好きだ」なんてつぶやいたりする。このあたりは、ちょっとホロリとくる。
こうしてみると、この作品は子供がアンドロイドに育てられること自体をそれほど問題にしていない。どちらかというと、企業の金儲けの論理に子供を利用していることを問題にしている。そして、もう一つは現在、アンドロイドに愛情をもって育てられている子供に、無理やり真実を見せても良いのだろうか?という葛藤である。これは、作品中で度々言及されるのである。
ただ、これらの問題に対して、それほど深い考察がされているかというとそういうこともないように思える。語られているのは、子供はやっぱり生身の親の元で、自然に囲まれて暮らすのが一番だよね、といった至極よく耳にする価値観である。37年前の作品を現代の目で良し悪しを語るつもりはないのだけれど、現代を生きる我々にも響くような、普遍的なメッセージは得られないかなというのが正直なところである。
本書は基本的にはエンタメ小説だと思っているが、このエンタメ部分もやはりちょっと古さを感じてしまう。アクションあり、恋愛ありという感じで30年前に読んだらもしかすると面白かったのかもしれないけれど、なんとなく80年代のハリウッド映画的な雰囲気で、既視感がある。とはいえ、ラストの方はなんだかんだとのめりこんで読んでしまったので、まったく面白くないわけではないのだけれど。
ということで、神林長平さんの初読みは、個人的には今一つな体験になってしまった。ただ、これが代表作というわけではないので、機会があれば別の作品も読んでみたい。
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