様々な場所で発表された青崎有吾さんの短編を集めたもの。特殊な背景の作品が多く、今一つ入り込めなかったものもあるというのが正直なところ。青崎さんのファン以外にはお薦めしづらいかもしれない。ただ、書下ろし短編「11文字の檻」はとっても面白かった。
著者本人がまえがきで「屋根裏部屋のような代物」と言っている通り、様々な場所で発表された短編を、一冊にまとめた書籍である。長さもテーマもバラバラなので、バラエティに富んでいるともいえるし、統一感がないともいえる。そのあたりは、青崎さん自身も気にされてていると見えて、巻末に著者本人による作品解説が掲載されている。この作品解説だけ読んでも結構面白いと思う。
以下、各話簡単に感想を書いていきたい。
加速してゆく
「平成ストライク」という、平成に起きた実在の事件に材をとったアンソロジーの一遍。2005年に発生したJR福知山線脱線事故を題材に選んでいる。面白かった。これまで読んだ青崎作品は、リアリティよりも、パズル的なものとか、漫画っぽい荒唐無稽さを楽しむ作品が多かったので、こういう作品も書くんだなと意外だった。ちなみに巻末にはこの作品にちなんで青崎さん自身が「平成のエラリークイーン」と呼ばれることに対する思いが綴られている。とっても笑えるのでファン必読である。
噤ヶ森の硝子屋敷
全面ガラス張りのお屋敷が舞台の本格ミステリ作品。「つぐみがもり」と読む。まさに青崎さんの得意分野。面白かったけど、トリックはちょっと無理がある気がしなくもない。「薄気味良悪(うすきみよしあし)」なる変な名前の探偵が出てくるところが、これまた青崎さんらしい。シリーズ化、期待しています。
前髪は空を向いている
「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」という漫画作品のトリビュート小説。多分、この漫画のファンの方ならすごく楽しめるのだろう、という作品。巻末の解説で、青崎さんが漫画未読の人に向けてこの漫画の魅力と背景を伝えようと頑張って解説してくださっているが、すみません、私にはついていけませんでした。
your name
わずか3ページのショート・ショート。このページ数できちんとミステリになっているのがすごい。
飽くまで
これも6ページの短い作品。この短さで犯人の異常さと、結末の皮肉さが見事に表現されており、好きな作品である。
クレープまでは終わらせない
本書の表紙(あと、裏染天馬シリーズもこの方だろうな)を書いているイラストレーター田中寛崇さんの画集につけるコラボ企画の一遍らしい。巨大ロボの清掃バイトをする女の子の話で、青崎さん得意のほのかな百合風味が出ている。でもすみません、ついていけませんでした。
恋澤姉妹
「彼女。百合小説アンソロジー」の一遍とのこと。百合と一言で言っても色々な描き方があるものだ。アクションものとしてそれなりに読めるのだけれど、ここで描かれている感覚(こういうのを、耽美的というのかなぁ)を理解するのは自分には難しかった。もう少し若いころに読んでいたらまた違ったかもしれない。
11文字の檻
唯一の書下ろし短編。第二次大戦のころの日本を思わせる〈東土帝国〉で思想犯として捕まった官能小説家が主人公。同じような人々が収容所のようなところに閉じ込められ、11文字のパスワードを解くまで出られないという設定。絶望的な数の組み合わせの中から正解を導きだすことは不可能に思えたが、収容所内の丹念な観察から突破口を見出す。青崎さんの作品にしてはちょっと陰気な雰囲気だけど、傑作だと思う。
全体を通してみると、やっぱりちょっとマニアックな短編集だったと思う。背景となる文化を共有していないいくつかの作品はついていけなかった。まあすべての作品を理解する必要はないし、普段なかなか読む機会のないであろう作品に触れられたのはよかったと思う。
2025年の読了本は、おそらくこれで打ち止めになると思う。2025年の振り返りを今日中にもう一本書いておきたいけど、間に合うかな・・・
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