課長風月

疲れたサラリーマンの憩いのひと時

読書「濁り水」日明恩

日明恩さんの、消防士が主人公のミステリー小説。すごく面白かった、とまでは言えないけどまずまず楽しめた。シリーズものの四作目と知らずに読んでしまったが、登場人物については適宜説明が挟まるので大きな問題はない。

 

先日読んだ「和菓子のアンソロジー」で、どら焼き描写が印象的だった、日明恩(たちもりめぐみ)さんの作品である。しかし、この漢字でたちもり、とはなかなか読めないよなあ。行きつけの図書館に、たまたまこの一冊が置いてあったので借りてきたのである。ちなみに、本書でもどら焼きが若干言及されている。

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読み始めてから知ったのだが、本書はFire's Outという、消防士が主人公のミステリーシリーズの四作目であった。発行は2021年。シリーズ第一作の「鎮火報 Fire's Out」は2003年に出版されているので、長く続いているシリーズのようである。

 

主人公は大山雄大という二十八歳の消防官。彼は、人を助けたい、役に立ちたいといった志を持って消防官になったわけではなく、安定した給料と手厚い保証で定年まで居座ることを目的に、常に現場ではなく事務仕事への異動を希望し続けている。消防官の同僚たちの熱い思いや向上心を少々斜めから見て「あー、やだやだ、この体育会ノリ大嫌い」みたいに心の中で揶揄しながら勤務しているのである。

 

このように書くと少々イヤな奴のように思えるが、実際の行動を見ると、どう見ても真面目な消防官としか思えず、上司や同僚からの評判も悪くなさそうである。どうやら、彼の父親は熱血消防官で殉職しており、消防官に対して少々屈折した思いを抱いているようなのである。このあたりのエピソードは、おそらく前の巻で描かれているようだが、本書でも少し言及されている。上述の独白は、本心を覆い隠す照れ隠しのようにしか思えないのである。このあたりの独白と行動のギャップが主人公を魅力的にしている。

 

そして、本書の一番の魅力は、消防官の普段の仕事の内側の描写である。普段の訓練の様子、消防官の勤務体系の矛盾、ロードサービス代わりに気軽に消防を呼びつける都民への憤りなどなど、主人公が心の中で毒づきながらユーモアを交えて語られる。どの程度真実なのかは消防官ではない私には判断のしようもないが、おそらく綿密な取材に基づいているだろう。ここは最高に面白い。

 

ただ、本書のもう一つの核をなすミステリーパートがちょっと微妙である。「大雨特別警報」の暴風雨の中、救助要請が出ていたが間に合わず死亡してしまった八十代女性の死について、本当に事故だったのか?を探る。探偵役は雄大の友人、守と裕二の二人である。守は、大金持ちの引きこもりで犯罪マニアであり、主に彼の好奇心を満たす目的で事件の真相究明を行っていくわけなのだが、その金持ちぶりと万能ぶりにリアリティを感じられない。また、警察でもなんでもない友人グループ三人で事件に迫ろうというのもなんか不自然だし、情報の集め方も偶然に頼る部分が多く、おおよそ緻密とはいい難い。

消防隊パートのリアリティに比べて、ミステリーがとってつけたような形になってしまって、ミステリー部分、必要?という感想になってしまったのである。消防隊のドラマだけで十分面白いと思うんだけどな。そこが惜しいところである。

 

とはいえ全体には面白かったと思う。雄大の過去のエピソードも気になるし、前の方の巻も機会があれば読んでみたいと思う

 

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