課長風月

疲れたサラリーマンの憩いのひと時

読書「ノッキンオン・ロックドドア2」青崎有吾 ※ネタバレあり

探偵事務所を舞台とした、青崎有吾さんの短編ミステリー2作目。前作同様、ゆるく楽しい短編ミステリー集と最初の5本を読み終わったところまでは思っていたが・・・6本目の解釈をめぐり奥様と激論を闘わせることになってしまった。ここを避けてブログ記事を書くことは難しい。

 

したがって、今回は、完全にネタバレありの感想となる。今後、本書を読まれる予定の方は、以降本文に進まないことをお勧めいたします。

 

青崎有吾さんの作品を読むのはこれで13冊目。現在発刊済みの単著はすべて読み切ったことになる。私ももちろん好きなのだが、うちの奥様も青崎ファンということもあり、昨年から二人で読み漁って来たのである。

 

本書の6本目の書下ろし短編「ドアの鍵を開けるとき」は、前巻から度々言及されてきた、いくつかの謎を明らかにするものである。四人の学生時代にまつわる「五年前の事件」とはなんなのか?御殿場倒理の首には、なぜ傷がついているのか?なぜ糸切美影は犯罪コンサルタントになったのか?

 

結論は衝撃的だった。倒理の首に傷をつけたのは、片無氷雨。探偵事務所「ノッキンオンン・ロックドドア」の相棒にして、主役の一人である。ハウダニットには疑問の余地なしだが、ホワイダニットにはいくつもの疑問符が付く。

 

なぜ氷雨が倒理の首を、ナイフで切りつける必要があったのか?ゼミで調べていた、飼い犬殺しの犯人は、飼い主の友人であった。その犯人の名を飼い主に伝えに行こうとする倒理と、反対する氷雨。「倒理を犯罪者にしたくなかった」というのが氷雨の口から語られた動機だが、真相を伝えに行くだけなら、別に犯罪者になることもないのでは?また、止めるにしてもナイフで切りつける必要は特にない。もう少しマイルドなやり方だってあったはず。不可解である。そして、わざわざ密室を作った理由を氷雨は「僕らの中だけに事件を留めたいといういびつな願望」と表現しているが、これがまたピンとこない。

 

そんな話を奥様にしたところ・・・何故わからないのかがわからない、だから恋澤姉妹も理解できないのだ、というようなことを言われてしまったのである。ちなみに、恋澤姉妹とは青崎さんが百合アンソロジーとして書いた小説で、奥様は読んで感銘を受けたそうである。しかし、私は理解ができず、そのことをブログにも書いたのであった。

karaage365.hatenablog.jp

 

むう、それならば上の疑問に対する答えを教えてくれ。

しかし、奥様の回答は、こんな感じであった。

この小説では、もともと倒理には少しエキセントリックで危ういところがあり、氷雨は冷静な常識担当という役割分担だったのだが、実は氷雨の方にも危ういところがあったのだと。うーん、理屈じゃなくてそういう人だったってこと?納得感ないなぁ・・・

 

ということで、この作品のポイントを二人で改めて読み返しながら、喧々諤々の議論を行い、振り返った。そうすると、色々と深読みできそうなポイントも見えてきたのである。

 

まず、氷雨はおそらく倒理に対して恋愛的な意味での好意を抱いているのだろうということになった。これは、飼い主に犯人の名を告げに行こうとする倒理に対し、氷雨が「杉好さんを復讐者にしたくない。それに僕は君を……」というセリフに表れている。「……」の部分は、言葉にならなかった「愛してる」だったのだろうと。

 

氷雨には、倒理を殺す意図はあったのだろうか?これは恐らく、半々だろうと思う。倒理には、法律を守ることより、被害者の気持ちを晴らすことを優先させようとする危うさがあった。「犯罪者にしたくない」はもちろん本心ではあるが、むしろ倒理が迷惑をかけまいと、氷雨の前から姿を消してしまうことの方を恐れたのではないか。糸切美影が実際にそうであったように。自分の前から姿を消してしまうくらいならば、いっそ殺してしまうことで繋がりを永遠のものにしたいと思った、というのは少々ロマンチックが過ぎるであろうか。

そういう意味で「犯罪者にしたくない」は、「愛している」の心理負担を少なくした言い換えなのかもしれない。そう考えると、倒理が犯人を氷雨と知りながらかばった理由である「おまえを犯罪者にしたくなかったんだよ」が、それに対する答えのようにも思えてくるのである。

 

倒理が美影に「後を託す」意味で、血文字で書いた「ミカゲ」という文字。それを踏まえて、美影は飼い主に犯人の名を告げに行ったようだが、おそらくそれだけではなかっただろう。バレないように復讐を遂げる手段のアドバイスをしたのではないか。そこから、実際に犯罪アドバイザーとしてそれを職業としてしまうのは、少々飛躍が過ぎる気もして、そこは今も少ししっくり来ていないところである。美影のような天才肌の考えることは、伺い知れないところがある、ということだろうか。

 

ということで、多少深読みの妄想が入っているかもしれないが、以上が本書を読んだ私の解釈である。少し前に読んでピンとこなかった「恋澤姉妹」も、今なら少し理解できるかもしれない。

 

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