課長風月

疲れたサラリーマンの憩いのひと時

読書「続きと始まり」柴崎友香

コロナ禍の時期を中心に描く、柴崎友香さんの長編小説。大きなストーリー展開があるわけではないけれども、登場人物の心情が染み込むように伝わってくる良い小説だった。

 

柴崎友香さんの作品を読むのは初めてである。昨年出版された「帰れない探偵」という小説が面白そうだなーと思いつつ手がでないままでいたのだが、図書館で本作が目に入り、先に手に取った。

 

予備知識ゼロで読み始めたが、序盤でコロナ禍の日本が舞台の小説だと気づく。私は憩いを求めて読書をしているので、実は現代の世相などを切り取った小説を手に取ることは少ない。重たい気分になりたくないし、本を読んで社会について考えるとか、自分の人生に影響を与えるとかは、あまり考えたくないのである。そういう意味で、読み始めはちょっと作品選びを間違えたかなと後悔していた。

 

主人公は三人。東京でのデザイナーとしての仕事を諦め、関西の郊外で働きながら子育てをする石原優子。東京で調理師として働きながら子育てをする小坂圭太郎。東京でフォトグラファーとして働く独り身の柳本れい。

 

この三人について、2020年3月から、2022年2月までの約2年間の生活が描かれる。ちょうど新型コロナウィルスが世界的な問題となり、外出の自粛が始まって、マスクが買えなくなり、オリンピックが延期されたり、翌年に無観客で開催されたりと、世の中不安真っ只中といった感じの時期である。

 

ただ、もちろんコロナ禍の話題は出てくるのだが、読んでいるとそれが本書の主軸というわけではないことに気が付く。もっともページを割かれているのは、彼らの仕事や家族との関係についての悩みや思いである。

 

以下は主人公の一人、石原優子の印象的な独白の引用である。

 

巨体のプロレスラーは、ゆっくりと優子たちの車の前を通った。悠々と大通りを横切っていくその姿に、優子は見とれた。

あんなふうになりたい。

と、思っていた。

わたしの体が、見た目が、あんなふうだったら、よかったのに。

そうしたら、見くびられずに生きていけるかもしれない。

 

主人公の三人は、みな特別な人ではない。フォトグラファーの柳本れいは、若いころに写真展で賞をとったりして平凡な人とは言い難いけれども、通常はフリーランスの職業写真家として生活のために依頼された仕事をこなしており、コロナ禍で仕事が途切れることを心配している。突き抜けた一握りの芸術家ではない。

 

そんな彼らが、コロナ禍の状況に対応しながら生活をし、コロナのことも含めて、親であったり、子供であったり、仕事であったり、様々なことを考える。その心情が、そのまま読者である自分の胸の内にもするりと浸透してくる気がしてくるのである。それほど物語に起伏があるわけではないのに、いつの間にかページが進んでいる。

 

さて、この三人の人生がどこで絡んでくるのか?というのがやはり読者としての興味の一つなのだが、それはなかなか明かされない。もちろんそれは、タイトルである「続きと始まり」の意味するところでもあるのだが、正直なところ理解できたかどうかは怪しい笑。ただ、何度も噛みしめて読み直したり考えてみたりしたくなる小説ではある。

 

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