紙鑑定士とプロモデラーがタッグを組んで、探偵として人探しを行う。なんともマニアックな設定だが、とっつきづらさはなく、軽い読み心地で楽しめる一冊であった。
うちの奥様が、図書館で借りてきた本である。著者についても作品についても全く知識なし。棚を見て本当に何気なく手にとったそうだ。うちの奥様は、ごく稀にそういうことをする。以前古本屋で知らない作家のミステリーを脈略なく選び、結果ハズレを引いていたので警戒していた。しかし、本作は面白かったと言っていたので、それでは私もと、読んでみたのである。
本作は、2020年の「このミステリーがすごい!大賞」の大賞受賞作とのこと。既にシリーズが3作発行されている。
主人公は、個人経営の「紙鑑定士」である渡部圭。持ち込まれた紙のサンプルから、メーカーや銘柄などを調べる専門家である。そもそもそんな職業が成り立つこと自体初めて知った。思い出したのは、以前訪れた市ヶ谷の「本と活字館」。あの印刷と紙の世界の奥深さを思い出したら、確かにこういう職業もありそうだなぁと納得できるのである。
渡部は元々は出版社社員だったが、訳あって独立開業。しかし商売はあまりうまくいっておらず、新宿に構えた事務所で少々閑を持て余していた。そんな時、「紙鑑定」を「神探偵」と勘違いした女性から、恋人の浮気調査を持ち込まれ、報酬につられてなんとなく引き受けてしまったことから物語は始まるのである。
女性が持ち込んできたのは、いわゆる「ジオラマ」の写真。以前から彼氏の浮気を疑っていた女性は、彼氏が突然、戦車のプラモデルを作りだしたことに不審の念を抱く。そしてこの写真を元に、浮気しているかどうかをつかんで欲しいというのである。ジオラマから浮気を連想するなんて、少々突飛というか強引な気もしてしまうけど、読んでいるとそれほど違和感は感じない。そしてそこから渡部は、本作のホームズ役とも呼べる「伝説のモデラー」こと土生井昇と出会うのである。
土生井は、模型に関しては国内トップクラスの実力者で著書も何冊か出している著名人。しかし、とある事情で仕事を干されてしまい、高尾にある自宅の「ゴミ屋敷」で認知症の母親とともに世捨て人のような生活を送っている。とはいえ決して心の捻じれた人ではない。低姿勢で意外と人当たりもよく、何より模型愛にあふれた人なのである。
この土生井が、渡部から件のジオラマ写真を見せられ、豊富な模型知識と優れた洞察力を駆使して、安楽椅子探偵よろしく名推理を繰り広げる。正直、模型に関する専門用語はほとんどわからないけれど、ここがなんだか小気味よいのである。
事件はここから、思いもよらない方向に発展していく。紙オタクと模型オタク。極めてマニアックな世界で道を究めた二人が、得意分野の知識をフル活用して事件の真相に少しずつ近づいていく。章の切れ目毎に新たな真相が明らかになり、飽きさせないのである。
正直、推理についてはちょっと都合がよすぎるというか、ジオラマだけでそこまで読み取るのはどうなの?と思う節がないでもないけれど、あまり細かいことを気にしなければ、娯楽としてとても楽しめる作品だった。続編も読んでみたい。
↓よかったらクリックお願いいたします。
