樹木に関するトラブルを受け付ける区役所の環境対策課「緑の窓口」を舞台とした下村敦史さんの連作短編。ライトな読み心地で心温まる内容。まずまず面白かった。
最近とにかく仕事が忙しい、のである。
情報システム関連の仕事をしているのだが、年明けから障害対応が続いている。進めなければならない通常業務に取れる時間が圧迫され、遅延を引き起こしてさらに対応に手を取られる悪循環。50代の体力低下も相まって、ほとほと疲れているのである。
そんな状況の時にどんな本を読むといいだろう。
徹夜必至のノンストップ・サスペンスのようなものは、よくない。そもそも疲れているのに、続きが気になって徹夜で読みふけるようなことがあってはならない。
読んで価値観が一変するような、優れた文学作品も望ましくない。おそらく、いまやっている仕事がとてつもなくくだらないものに思えて仕事に支障が出るだろう。実際、80%くらいはくだらない仕事なので余計に質が悪い。
そんなことをつらつら考えながら、図書館ですっと目に飛び込んできたのが本書だったのである。ポニーテールの若い女性が虫眼鏡片手に樹木を観察する表紙絵。やわらかいフォント。そして「樹木トラブル解決します」というサブタイトル。トラブルとはいっても、深刻になりすぎなさそうなところが良い。私が求める「癒し系」に違いない。
ただ、作者が下村敦さんであることは気になった。以前に一作だけ「絶声」という作品を読んでいるのだが、こちらは遺産相続にまつわる事件モノで、とにかく登場人物が醜い金の亡者ばかり。面白かったけど、今読みたいのはこういうのじゃないんだよなぁ。
前置きが、長くなった。
本書の主人公は、区役所に勤める二十四歳の青年、天野優樹。もともとは生活保護受給者のためのケースワーカーを勤めていたが、親身になりすぎる性格から体を壊しかけ、環境対策課への異動を命じられるところから物語は始まる。
天野が担当することになったのは、「緑の窓口」。今年新設されたばかりの、樹木に関する地域トラブルに対応する窓口である。イケメンだが変人の先輩・岩浪とともにあたった最初の業務は、ある住宅のスギに関するトラブル相談。育ちすぎて邪魔になったスギの樹を伐採したい嫁と、思い出の樹を残したい姑の仲裁である。話を聞きに行った二人は、姑とともにスギの伐採に強硬に反対する女性の樹木医・柊紅葉と出会うのである。
本書は、人は死なないがミステリー仕立てで、この樹木医・柊がホームズ役、区役所職員の天野がワトソン役となる。柊は、子供の頃自宅の庭に植えられたユリノキを「妹」と呼ぶほどの極端な樹木好きで、専門知識も豊富。しかし人と接するのが苦手のようで、冗談が通じなかったり、素人に専門用語をまくしたてて辟易とされたりと、不器用な人のようである。ただ、天才探偵にありがちな傲岸不遜さはなく、人付き合いが苦手なことを少々気にしている。そこに、心優しい天野が間に入って、ともにトラブルを解決していく。
全体的にはコメディ調で楽しい雰囲気だが、樹木トラブルといいつつも、本当のトラブルの種はやはり人間に関するもの。冒頭の嫁姑であったり、認知症の父を抱える息子の葛藤であったりとそれなりに生々しい。花鳥風月を愛でるだけの作品ではないのである。ものすごく面白いわけでもないが、少しホロリとくるシーンもあり、なんだかんだとぐいぐい読めてしまう。以前読んだ「絶声」とは雰囲気が違うものの、リーダビリティの高さは共通している。まあ、疲れた今読むにはぴったりだったかな。
ちなみに、本書を読んで初めて知ったこととして、現在植えられているソメイヨシノはすべて接ぎ木により増やしたクローンだとか。気候条件が同じならすべて同じ時期に花が咲くのだとか。うちの奥様に教えてやろうと自慢気に披露したが、そんなことは知っている、天気予報を見ていればよく話題なる。何をいまさら、と言われてしまった。有名な話だったのか。
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