課長風月

疲れたサラリーマンの憩いのひと時

読書「52ヘルツのクジラたち」町田そのこ

初読み町田そのこさんの長編小説。とっても面白かったけど、鈍った中年の感性では感動しきれないものがあるのも確かである。

2021年の本屋大賞受賞作。人気作なのでタイトルは知っていたけれど、どんな話かは知らなかった。美しく幻想的なカバーデザイン。ちょっと古風で優しい雰囲気のフォント。50代中年男性がターゲットでないことは、まあわかる。しかし、図書館の返却棚に人気作がひょっこりおいてあるのを見つけ、つい得した気分になって借りてきてしまったのである。優しい感じの泣ける系の話かなと想像していたが、思ったよりヘビィな展開であった・・・

 

主人公は、20代の女性、川島貴瑚。キナコと呼ばれている。大分県の、海の近くの田舎街に最近一人で越してきた。働いているそぶりはないが、お金に困っている感じもしない。近所の老人たちから、風俗嬢ではないかと噂され、憤りを覚えながらも無視を決め込んでいる。どうやら過去の人間関係を断ってこの街にやってきたらしい。

 

ある日キナコが、散歩中に大雨に降られ雨宿りをしていると、傘も差さずに歩く少女が目についた。話しかけてみるが反応がない。その時はそのまま通りすぎていっただけであったが、別の日にまた少女を見かける。よく見ると痩せこけて服はボロボロ。変なにおいがする。心配に思った女性は、自宅に招きいれて無理やりシャワーを浴びさせようとするが、そこで気づく。少女と思っていたのは少年であること。少年はしゃべれないこと。そして、体が傷だらけであること。児童虐待の被害者、なのである。

 

その後小説では、キナコと少年と物語と並行して、キナコの過去が語られる。その中でキナコ自身も過去に親から虐待を受けてきたことがわかってくる。友人の美晴と、「アンさん」と呼ばれる恩人により何とか親元を抜け出し、一度は平穏な生活をつかみかける。

 

それなのに、なぜ世捨て人のように田舎町に逃れてきたのか?このあたりの展開はスリリングでサスペンス的な要素もあり、ぐいぐいと読まされてしまう。とある真相が明かされたときは驚き、そしてまたすごく切ない気持ちになった。単なる感動物語ではない小説的仕掛けがあり、このあたりは文句なく面白い。さすが本屋大賞である。

 

しかし、冒頭でも書いた通り今一つ感動しきれない点がある。それは・・・

 

少年が美少年なのであった。しかも、素直で、嫌なところの一点もない、とびきりのいい子なのである。

 

自分は児童虐待の問題に関わったこともなければ、これまで強い関心を持って調べたこともない。実情を知っているわけではないので何か意見を述べたりするつもりは全くないのだが、なんとなく物語のとっての都合の良さを感じてしまうのである。この少年が並みの容姿であったり、少々憎たらしい側面があったりしても、キナコは彼を救おうとしたのだろうか。などと捻くれた見方をしてしまったりして。

 

これについて善いとか悪いとかかではない。ただそう思ってしまって完全には入りこめなかった、という個人の感想である。

 

 

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