恒川光太郎さんの短編集。ジャンルとしてはホラーになるのだろうけれど、恐怖だけではない様々な要素が絶妙なブレンドでミックスされたなんとも言えない味わいの作品。面白かった。
恒川ファンを自認し、常々当ブログにその旨書いている私ではあるが、実はまだ全ての著作を読んでいるわけではない。新作の「ジャガー・ワールド」と「幽民奇聞」は購入して読了したが、他は地元の図書館の棚にあったものしか実は読んでいないのである。
そんなわけで、まだ読んでいない著作たちを順番に読んでいこうとまず手に取ったのが本書、「秋の牢獄」である。2007年発行で、「夜市」「雷の季節の終わりに」に続く、恒川さんの三番目の単行本なのである。2007年なんてつい最近のことのような気がするけど、もう19年も前なのだなぁ。
本書は、三本の短編から成っている。それぞれにつながりはない。
一本目は表題作である「秋の牢獄」。「これは十一月七日の水曜日の物語だ。」という冒頭文がこの小説の全てを表す。いわゆる時間ループもので設定として珍しくはないけども、やはり恒川さんらしい奇想で独特の作品になっていると思う。あんまり何かを成し遂げたりしないで、ただわけのわからない怪異に巻き込まれる、という感じが好きなのである笑。
二本目の「神家没落」はなかなかの名作。酔った帰りにちょっと近道をしようとした男が、よくわからないまま変な場所に出てしまい、時代に取り残されたような藁ぶき屋根の一軒家に辿り着く。そこで「翁」の面をかぶった怪しい老人に跡継ぎに指名され、出られなくなるという話である。前半はちょっと笑えるほのぼのとした作品かと思っていたら、途中で一気に話が暗転する。「雷の季節の終わりに」にも通じる、恒川さんのホラー作家としての実力が出た作品である。
三本目の「幻は夜に成長する」は、本作の中では一番シリアスな作品。人に自由に幻を見せられる力を持った少女の物語である。同じ能力を持つ祖母と共に人から隠れるように暮らしていたが、この力を利用しようと企む人々より引き離される。少女が憎悪を蓄えていく様に戦慄を覚えるのである。
総じてみると、最近の恒川さんの作品に比べるとホラー色はやや強め。ヤバイ奴の描き方が抜群にうまい。でもやっぱり、怖さだけでなくユーモアもあったり、少し哀しい感じもあったりと恒川作品は本当に多面的である。やっぱりいいなぁ。
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