初読み有栖川有栖さんの中編ミステリ3本。安定して楽しく読めるミステリーという感じでとても良かった。
大ベテランの本格ミステリ作家・有栖川有栖さんのお名前はもちろん存じ上げていたのであるが、実は読むのは今回が初めてなのである。特に敬遠していたわけもなく、単にこれまで読むきっかけがなかったのである。
しかし、夕木春央さんの「方舟」文庫版で見事な解説を書かれていたり、青崎有吾さんがトリビュート作品を書かれていたりと、ここしばらく他のお気に入りの作家とのつながりでお名前を目にする機会が増えていた。そんな中、うちの奥様が本書を図書館で借りてきたのである。奥様はわりとさくっと読んでしまい、面白かったと言っていたので、私も読んでみることにした。
本書は有栖川さんの著作の中で「作家アリスシリーズ(火村英生シリーズ)」と呼ばれるシリーズものの一冊である。Wikipediaで調べてみると、1992年刊の「46番目の密室」から2024年刊の「日本扇の謎」まで、30年以上にわたり30作以上が生み出されている。有栖川さんの代表シリーズといってよさそうである。
小説の語り手はミステリ作家の「有栖川有栖」。通称アリス。作者と同名の登場人物が作品に出てくるという趣向。本家はおそらくエラリー・クイーン(未読)なのだろうけど、これがなかなか洒落が聞いていて面白い。
現在の有栖川さんはむしろ大御所に近いポジションだと思うが、作中のアリスはまだ三十代前半のややマイナーな作家という位置づけになっている。おそらくご自身が駆け出し作家のころのキャラ設定をそのままにしているのだろう。編集者からなんとなく軽く扱われていたり、登場人物に推理作家だと紹介されても名前を知られていなかったり、挙句、赤川次郎と会ったことがあるかと聞かれたり。少々自虐の入った描写が笑いを誘う。エラリー・クイーン(未読)と違って、名探偵ではなく助手であるのも控えめで、何となく好感が持てる。関西弁で少々的外れな意見を述べたりして、探偵役の火村から突っ込みを受けるのも面白い。
探偵役の火村は、大学の准教授で犯罪社会学者。明らかに切れ者で、いつくかの事実を結び付けてさくっと謎を解いてしまう。二人は学生時代からの付き合いという設定で、お互いのことは口悪く言い合うが、じゃれ合いの延長という感じで明らかに仲良しなのである。
さて、本書は2012年に刊行された3本の中編集である。シリーズの第一作からちょうど二十周年に当たるようだ。
1本目の「オノコロ島ラプソディ」は、淡路島を舞台としたミステリー。洲本市で廃品回収業を営む六十代の男性が自宅で撲殺される。殺された男性は実際はかなりの金持ちで、裏の顔は高利貸しだったらしい。男性から金を借りていた複数名が容疑者となり、いずれもアリバイのない時間が存在するが、殺害が不可能に思える。誰が、どうやってやったのか?容疑者が明らかに怪しげなのに、崩せそうで崩せないアリバイを巡る攻防が面白い一篇である。
2本目の「ミステリ夢十夜」は、夏目漱石の夢十夜のミステリ版という趣向。アリスの見た夢という体の奇妙なショート・ショート10本である。火村をはじめとする登場人物たちがマラソンをやったり、***合衆国(アメリカではないらしい)の大統領を警護するSPになったりと、夢ならではの荒唐無稽な設定で、ミステリをやる。キャラを生かしたファンサービスの一環みたいな感じだろうか。こういうの好きだけど、本書が初読みの私にとっては、この作品で初めて知る登場人物なども多く、置いてけぼり感はある。
3本目の「高原のフーダニット」は、架空の高原「風谷(かぜたに)高原」を舞台とした殺人事件を扱うもの。知り合いだった双子の兄から「弟を殺してしまったので自首したい」と電話を受けた火村の元に、実は兄も殺されていたという知らせが届く。犯行時刻に高原の外部から侵入した人物はおらず、地域内の数名の中に殺人犯が潜んでいることがわかる。
いずれも内容は重すぎず、洒落っ気があり、でもトリックはしっかりという作品たち。目新しさはないし、驚愕のどんでん返しみたいな感じでもないけれど、期待通りの馴染みの味みたいな感覚(初読みだけど)。結構好きである。他の作品も読んでみたい。
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