2026年3月26日に発売されたばかりの、方丈貴恵さんによる中編連作ミステリー。大胆な仕掛けで楽しめる一冊であった。
方丈貴恵さんのお名前を知ったのは、以前読んだ「推理の時間です」というアンソロジーだった。6人の推理作家による競作に参加されていたのである。方丈さんの作品タイトルは「封谷館の殺人」。お題が「フーダニット」だったので、封谷館(ふうだにかん)・・・。この人を食ったようなネーミングセンス。作品自体も遊び心に溢れていて、私の心を掴んだのである。最近はこういう、肩の力を抜いて楽しめる作品が好きだ。いつか他の作品も読んでみたいと思っていたところ、本書発売のニュースを目にして思わず買ってしまったのである。
本書の語り手は、霧島央太郎。フィリピンで騙されて借金漬けにされてしまい、しばらく犯罪組織で働いていたが、抗争のドサクサに紛れて逃げ出して、日本に帰ってきた。何とか職にありついたが、反社との関わりを噂され、すぐに解雇。荒れている中を、中学時代の同級生である草津正守に声を掛けられる。
草津は本書の探偵役。中学生のころから探偵を目指し、現在は夢かなって探偵事務所を構えていた。天才的な推理力で、捜査一課から捜査協力依頼を受けられるほど信頼されていたが、生来の悪運により交通事故で脊髄損傷。一生車椅子の生活となってしまった。一人で探偵業を続けられなくなった彼は、助手として中学時代の同級生である霧島に声をかけたのである。
草津が半身不随になっても探偵を続けるのには、実は理由があった。それがもう一人の中学時代の同級生、氷見朱鳥(ひみあすか)の存在である。探偵となった草津とは対照的に、氷見は犯罪者となっていた。それも、犯罪者の依頼に応じて隠蔽工作を行う専門家である。草津は、氷見を止めることに執念を燃やす。
ちなみに、学生時代の同級生が、探偵と犯罪者になって対決するというこの構図。すぐに青崎有吾さんの「ノッキンオンン・ロックドドア」が思い浮かんでしまった。設定が似ているからけしからん、などと固いことを言うつもりは毛頭ないけれど、まあ新鮮味が薄く感じられてしまうのはしょうがない。
本書の軸は、犯罪を隠そうとする氷見と、犯罪を暴こうとする草津との対決で、それがタイトルの盾と矛になぞらえられているのである。通常の推理小説は、犯人を特定するところがクライマックスだが、本書は異なる。草津はあっという間に謎を解いてしまい、序盤で早々に犯人が判明する。しかしその後、氷見が捏造した証拠により警察の捜査は明後日の方向にそれてしまう。「事件は犯人が分かってからが本番だよね」という言葉の通り、そこからが本書の読みどころなのである。
しかし、「地雷グリコ」みたいな知能バトルを期待して読んでいたのだが、実際はそこまでバトルにはなっていなかった。帯にある「推理合戦」というからには、お互い何ターンか応酬があってしかるべきかと思うのだが、パターンとしては、草津が犯人特定→氷見が捏造で覆す→草津がそれを暴くという形で終わってしまい、対決要素は案外あっさりしている。その点は正直、肩透かしを食った気分である。
ただ、型通りに進む予定調和シリーズかと思わせておいて、終盤に意外な展開を見せる。詳しくはネタバレになるので書かないけれど、びっくりさせられた。
総じてみるととても面白く、あっという間に読み終わってしまった。登場人物たちがみな天才・万能すぎて少々荒唐無稽に思える点もあるが、大胆な仕掛けで楽しませるエンターテイメントという感じで間違いなく楽しめたのである。方丈貴恵さんの別の作品も読んでみたい。
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