課長風月

疲れたサラリーマンの憩いのひと時

読書「ミュージック・ブレス・ユー!!」津村記久子

2008年刊行の、津村記久子さんの長編小説。音楽好きの高校生の女の子が主人公。中年おじさんの自分には縁遠い存在と思いつつ、意外にもその心情が沁みとおるように伝わってくる。

ミュージック・ブレス・ユー!!

ミュージック・ブレス・ユー!!

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世の中には、物語にはそれほど起伏がなくても、なんとなくいつまでも読んでいたい小説がある。私にとって、津村記久子さんの作品群はその代表格である。

 

これまで8冊ほど読んでいるが、外れなしなのである。「ポトスライムの舟」「ワーカーズダイジェスト」「この世にたやすい仕事はない」といった、仕事をテーマにした作品を多く書いている印象があるが、「水車小屋のネネ」のような長編ドラマもいいし、「浮遊霊ブラジル」のような、ちょっと日常から離れた奇妙な作品も好きである。ちなみに、「浮遊霊ブラジル」に収録された「地獄」という短編は、小説や映画などが好きな人が「物語消費しすぎの罪」で地獄に落ちるという、本好きな人にぜひ読んでほしい笑える作品である。

 

本書は高校三年生のアザミの、卒業までの数か月間が語られる。明確な筋書きがあるわけではなく、学校での出来事であったり、友人とのおしゃべりであったり、アザミ個人の考え事であったりが、つらつらと語られてゆく。その中で、アザミの人となりがわかってくる。

 

冒頭で、バンド仲間のさなえちゃんからなぜかビンタされてしまう。どうも怒られる明確な理由があったようにも思えないのだが、アザミ本人は、それに対して喧嘩腰になったりするわけでもなく、きっと何か自分が気に障ることを言ってしまったのだろう、という感じで見ている。アザミは少々、周りの理解に構わずしゃべる癖があるようで、それが周りの人々に受け入れられないことを、経験的に気付いている。

そして音楽好きのアザミではあるが、もともと自分で演奏するよりも聴くことの方が大事というタイプで、そこまでバンドに対する熱意もなく、空中分解のような感じになってしまう。

 

音楽だけが生きがいという感じで、パソコンのスプレッドシートに聴いた曲のリストを書き込んで毎日その時の評価をつける。自分でランキングを作ったり、その時の気分の次第で自分の評価が変わってくることに驚きを感じたり。でも、ブログにして情報発信するとかはしていない。あくまで自分の中だけの楽しみになっている。

 

学校の成績はあまり良くないようだ。受験生ではあるが、どこか行きたい大学があるわけでもなく、卒業後に進路を決めなければならない、ということに現実感を持てない。そのことに劣等感は持っているようで、明確な進路や目標を持っている周りの友人たちのことを心の底からすごいと思っていたりする。

 

一方で、友達思いであることは間違いなく、周りの友人たちが、男子からひどいことを言われたとあっては心底共感して心を痛めるし、傷ついている人に対して、どういう言葉遣いをしたらよいだろうと、逡巡してしまうような一面もあるのである。

 

なんとなく伝わってくるのは、アザミ自身の諦念というか達観というか。努力して何かを達成するみたいな話では全くないし、どちらかというと若くしてすでにいくつも挫折を経験している感じである。だからといって、すごく悲観的になったり自暴自棄になったりするわけでもない。高校生だけれども、内面は結構大人だよなぁというのが、私が本書を読んでアザミに対して抱いた感想である。冒頭で「心情が伝わってくる」と書いたが、そういうところなのかもしれない。

 

「ミュージック・ブレス・ユー!!」というタイトルは、「God bress you」のもじりのようだ。音楽のご加護がありますように、ということだろうか。一つでも夢中になれるものがあるというのは強いことなのである。高校を卒業した後のアザミのことは描かれていないので想像するしかないが、なんだかんだで音楽と友人に囲まれて、充実した人生を送るのは?などと考えた。

 

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