初読み木内昇さんの長屋幻想小説、かな。何気なく手に取ったけど・・・良い本を見つけてしまった。
木内昇(きうちのぼり)さんのお名前を知ったのは、いつも読ませていただいているはてなブロガーさんの記事から。いつか読んでみたい作家リストに入れていて、たまたま気が向いて図書館で借りてきたのである。
時代は判然としないけれど、尋常小学校があって、モダニズムという言葉が出てきて、レコードなんかもあるみたいなので、大正くらいだろうか?。神社と御屋敷の間を伸びる路地に面した長屋が舞台。お針子さんの齣江(こまえ)を中心とした物語である。
主な登場人物は、数名。齣江のところに糸を卸に来る糸屋の青年。齣江の向かいに住むトメさんという老婆。齣江のところに入り浸っている魚屋の息子の浩三。その兄の浩一と、母親のおかみさん。
この舞台と登場人物で、十数ページの短い話が十七本。最初は長屋の人情話みたいなのかな?と思って読んでいると、少し妙な具合になってくる。
齣江はどうも、教養深い女性のようだ。家には「花伝書」がおいてあり、『真の花は、咲く道理も、散る道理も、心のままなるべし』みたいな言葉が口をついて出てくる。いったい、どういう経緯で長屋でお針子の仕事をしているのか、その過去が全く見えない。
トメさんは、この長屋に一番古くからいるそうだ。だが、いつから住んでいるのか、どこから来たのか、誰も知らない。浩一がある日、トメさんの部屋を訪ねると留守であった。押し入れの中をのぞくと、小さな丸窓が空いていた。その丸窓の先には、日本髪を結い、長い着物を着た若い娘さんがいた。しかし、目を反らしてもう一度見たときには、その娘さんはいなくなっていた。
長屋には時々、「雨降らし」と呼ばれる編み笠をかぶった男があらわれ、店賃を集めている。「雨降らし」が来ると、雨が降る。「雨降らし」が何者で、いつから長屋の店賃を集めるようになったのかも誰も知らない。
登場人物がみな優しい。ほのぼのした人情ばなしを基調としながらも幻想的なシーンが挟まって、すごく好きな雰囲気なのである。
最後には、数々の不思議に対して答えが用意されており、それはそれで切なくてとても良かった。ただ、私は本書に関しては、あまり種明かしにはこだわらずにぼんやり終わらせても良かったんじゃないかという気もする。霧がかかったような朧気な雰囲気が好きだったのに、すっきりと霧が晴れてしまったような。そこだけ少し残念だったけど、いい小説に出会えたなと思っている。
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