初読み詠坂雄二さんの長編小説。行きつけの書店で大きく取り上げられていたので期待して読んだのだが・・・途中までは面白かったんだけどなー。
※決定的なネタバレはしていませんが、結末に対してどう思ったか書いているので、傾向はわかってしまうかも。未読の方はご注意ください。
詠坂雄二さんの著作は本書が初読みだが、実はこれとは別の作品を一冊、積読している。「電氣人閒の虞」(でんきにんげんのおそれ)という作品である。これは、うちの奥様がブックオフで何気なく買った本である。感想を聞いたら「いまいちだった」と言っていたので、本棚の奥の方に埋もれたままになっている。
そんなさなか、行きつけの書店入り口の一番目立つ棚に、本書が大々的に並んでいるのを見かけたのである。私はテレビをほとんど見ないので知らなかったが、アメトークで紹介されて話題になった書籍の文庫化のようである。帯を見たらとっても面白そう。著者名に見覚えがあったことにも何となく縁を感じ、購入した次第である。
ある監察医が、地下鉄への飛び込み自殺と思われる轢死体を調べるところから物語は始まる。検死の結果に疑問はなし。身元も明らか。その上、遺書が発見された。通常なら事件性無しと判断するところである。しかしその死体は監察医が数日前に受けた奇妙な通達の特徴と一致していた。死体の大腿部に、読み方のわからない漢字らしきもののタトゥーシールが貼られていたのである。実は、ここ数か月に発生した自殺の中で、同じタトゥーシールが貼られていたケースが四例発生していたのである。
ここで読みの分からない漢字「暃」が、物語の鍵となる。「暃」という字は、JIS漢字コードに登録されてはいるものの、用例の分からない漢字で、「幽霊文字」と言われている。そして、本書のタイトル「5A73」というのはこの「暃」のJIS漢字コードなのである。
事件を追いかけるのは、警視庁刑事部「別室」所属の女性・山本と男性・早川のペア。刑事部ではあるが、本流から外れた曖昧な事件を扱う遊撃隊である。本書は、この刑事パートによる捜査と、自殺者たちの独白によるパートが交互に語られることで進んで行く。
序盤は間違いなく面白い。
まず、「幽霊文字」を小説に使うというアイデアが斬新である。こんな文字があること自体初めて知ったが、私のPCのIMEでも手書き認識すれば「暃」はちゃんと出てくる。複数の自殺者にタトゥーシールで「暃」という文字が貼られているとなれば、誰が、一体何のためにそんなことをしたのか?と、いやでも興味を掻き立てられる。目的が全く読めないだけに不気味で、それがスリルにつながっている。
死亡者たちの独白パートも引き込まれる。最終的に5人の死亡者の生前の独白が語られ、その内容は各人各様だが、特に「湯村文」のパートの仄暗さが際立つ。最初の死亡者である尾倉陸久と、二人目の死亡者である湯村文、希死念慮を持つ二人の交流が語られる。「自分が死ぬ様を見届けてほしい」と頼む尾倉と、それを受け入れる湯村。危険なやり取りではあるが、自己陶酔とはまた違った湯村の心の揺れ動きがリアルで、目が離せなくなる。
また、山本と早川の刑事ペアも独特である。二人とも、警察官としての資質を疑うような軽いノリで捜査を進め、不謹慎な発言も多い。そして、空気が読めない。それで、名探偵のような資質があるならわかるのだが、必ずしもそうでもなさそうなのである。この、何考えているんだかよくわからない二人も、本書の不気味さに一役買っているのである。
ただ、後半に入ったくらいから少々ダレてくる。長編ミステリーの醍醐味は、最初の不可解な謎の提示から、少しずつ事件の詳細が明らかになってくるところにあると思うのだが、どうも本書はその捜査がなかなか進まず、「暃」という文字をどう読むべきか?というテーマで堂々巡りを繰り返しているように思えてしまうのである。それでも、最初の謎が魅力的なので、早く真相が知りたくて、ページをめくる手は止まらない。
しかし・・・
肝心の真相が、私的にはダメだった。納得感が全くない。謎の面白さで引っ張っぱられた物語なので、過程が面白かったからまあいいか、とはならないのである。正直、ちょっと怒りさえ感じるほどであった。
ただ、もしかすると、詠坂雄二さんという方は、こういう作風なのかもしれない。
最初の方で家に一冊あると書いた「電氣人閒の虞」。これの帯にこのように書いてある。
綾辻行人氏 推薦!
「本当に大好きなのです、この作品。一人でも多くの人に読んでほしい。読んで、喜ぶなり怒るなりしてほしい。そして―――
一緒にぜひ、詠坂雄二を語りましょう」
あー、まあ、確かに・・・怒ってるし、ちょっと語りたくなってるかも。そういうことなのかな。少し冷静になってから冒頭と最後を読み直してみたら、確かに味わい深い・・・気がしなくもない。
それにしても、アメトークにつられて本書を読んだ人は、いったいどんな感想を抱くのだろうか。気になる。
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