課長風月

疲れたサラリーマンの憩いのひと時

読書「Yの悲劇」エラリー・クイーン / 中村有希訳

傑作と名高いエラリー・クイーンの長編ミステリー。現代のミステリー作品に比べるとテンポはちょっとゆっくりだけど、やっぱり面白かった。

 

実は、エラリー・クイーンの小説を読むのは恥ずかしならがこれが初めてである。「平成のエラリー・クイーン」こと青崎有吾さんの書籍はほとんど読んだんだけどね・・・。

改めて今回読もうと思ったきっかけは、最近綾辻行人さんや有栖川有栖さんといった、新本格化の方々の作品をぼちぼち読んでいて、彼らが好きな作家の筆頭に挙げているから。やはり、本家も読んでみたくなったのである。

 

「Yの悲劇」は、エラリー・クイーンの書籍の中でもとりわけ傑作と呼ばれる作品らしく、ミステリーのオールタイムベストみたいな企画だと、たいていトップ3以内に入っているようだ。本当は、前編にあたる「Xの悲劇」を先に読もうと思っていたが、あいにく図書館に置いてなかった。いきなり続編だけどまあいいか・・・。

 

港で漁師たちが死体を発見するところから物語は始まる。死んでいたのは、ヨーク・ハッターという六十七歳の男性。検死の結果は毒物死。遺品から遺書らしきものが見つかり、自殺の可能性が高い。

 

ヨーク・ハッターは、二か月ほど前から失踪届けが出されていた。妻のエミリー・ハッターは、失踪になんの心あたりもないと言うが、地元の人々の間では噂に上っていた。大人しいヨークは、気性粗い妻エミリーと、扱いづらい子供達との生活に疲れて果てて逃げ出したのではないかと。

 

エミリーは、遺体が確かにヨークのものだと確認する。事件は自殺として片が付く。しかしその二か月後、エミリーの前夫との間に出来た娘、ルイザの毒殺未遂事件が発生する。

 

こういった海外ミステリーの常だが、登場人物は多く関係は複雑である。

 

エミリー・ハッターには、ヨークとの間に子供が三人いる。長女バーバラは、天才詩人。長男コンラッドは、アル中のろくでなし。次女ジルは、美しく、多くの男性と浮名を流す放蕩娘。

そして、長男コンラッドと、その妻マーサの間には、十三歳と四歳の息子がいる。こいつらがとんでもない悪童で悪質ないたずらばかりしてマーサは疲れ果てている。そのうえ、コンラッドはDV気味。妻にとっては地獄のような家庭である・・・

 

毒殺未遂されたルイザは、エミリーとヨークの娘ではない。エミリーと前夫の間に生まれた娘である。ルイザは、目が見えず、耳も聞こえず、しゃべることもできないという三重苦を抱えている。エミリーはルイザを溺愛しており、ルイザには優しい。でも、他の家族たちには厳しい。そこに、何人かの使用人、家庭教師、弁護士、コンラッドの共同経営者なども絡んでくる。

 

そして、毒殺未遂事件は、殺人事件に発展する。

 

謎を解く探偵役は、ドルリー・レーンという元俳優。現役時代は演劇界の帝王と呼ばれていたが、今は引退して「ハムレット荘」なる郊外のお城で、優雅に暮らしている。聴覚を失っているが、読唇術を身に着けたため電話以外でのコミュニケーションには支障がない。

 

1930年代に作られた作品ということもあり、正直、展開はゆっくりしていると思う。殺人現場と邸の中の状況、登場人物の関係などがじっくり丁寧に描かれる。そして、謎解きは終盤までなかなか進展しない。現代のミステリーに慣れていると、ちょっとまだるっこしさを感じるかもしれない。まあ、タイパとかを気にされる方にはおすすめできないかも・・・

 

ただ、その真相はやはり凄かった。考えうる動機、登場人物の怪しげな振る舞い、一般常識。まぶされた様々なノイズを排して、論理的に考えることで辿り着く驚愕の結論。そして、不可解な状況がきれいにほどけていく快感。現代に至る本格ミステリの源流がここにあるのだなー、と納得したのである。

 

もちろん古い作品なので、後の世の作家たちに影響を与えた結果として、現代の目で読むと新鮮味はそれほどないかもしれない。しかし、今読んでも十二分に楽しめる作品だと思う。

 

別の作品も読んでみようかな。次は「Xの悲劇」にするか、「国名シリーズ」にするか・・・

 

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