10月19日、日曜日。少し前にチケットを買って楽しみにしていた小唄の公演「北斎小唄 そぞろ歩き すみだの節気」に行って来た。場所は両国にあるYKK60ビル。ちなみに、生の小唄を聴くのは初めてである。
きっかけは、少し前に読んだ「志ん朝の風流入門」という本だった。
落語家の古今亭志ん朝が四季の風物を落語調で語るエッセイみたいな本なのだけれども、もともとが「お好み邦楽選」というラジオ番組の台本だったためか、たまに小唄の歌詞が引用されていたりしたのである。今は便利なもので、Youtubeで検索すればすぐに聴くことができる。聴いてみて思ったのは・・・まあ、どれも同じ曲に聞こえる(笑)。でも、短くて聴きやすいし、結構カッコいい。何より歌詞から昔を感じるといいますか、最近古い物好きの私の心に少々沁みたのであった。
それで一度、生演奏を聴いてみたいなと思って見つけたのがこの公演だったのである。二十四節気をテーマに、葛飾北斎をはじめとする浮世絵を見ながら小唄を聴くという、まるで最近の私の趣味に合わせてくれたのかというような、とっても素敵な企画なのであった。
唄と演奏は、「明暮れ小唄」という女性二人のユニット。千紫 巳恵佳(せんし みえか)さんと、小唄 幸三希(こうた こうみき)さんである。お二人が交互に、一人が三味線、一人が歌で、交互に交代しあう。
そして、落語家の柳家緑太さんが案内役をしている。小唄の歌詞に出てくる言葉などを、演奏の前に少し落語調で解説してくれるので初心者にもわかりやすい。葛飾北斎と、その娘、葛飾応為による会話で進むコンセプトのようだ。
三味線は、とてもやさしい音。公演の後で知ったが、小唄の三味線は撥を使わず、爪弾きなのだそうだ。
演奏中、正面の大きなスクリーンには、小唄の題材に合わせた浮世絵が表示される。小唄の歌詞は昔の言葉が多いが、浮世絵はそのイメージを補強してくれる。歌詞が字幕で表示されるのも初心者にはうれしい。
小唄の歌詞にはちょっと滑稽なものもあると分かった。この日の演目の中だと「七福神」というのが面白い。ちょっと長いけど引用する。
〽そもそも 我らは西の宮の
夷三郎左衛門の尉
色の黒いは大黒天よ
長い頭巾冠りて
老いらく姿のおやじさん
誰ぢゃ誰ぢゃ 云わずと知れし
寿老人 顔の長いは福禄寿
布袋は土仏 その中に美しいのは
弁財天女 と誉めたれば
そこで毘沙門腹をたて
そこで毘沙門腹をたて
なぜ誉めた なぜ誉めた
七福神のその中で
弁天ひとりをなぜ誉めたと
言うのも野暮かいな ホホホホ
ハハハハハ 笑う門には福来る
弁天だけを誉めたといって、なぜかキレる毘沙門天・・・
寿老人の説明だけなぜか妙に歌詞が長いのもなんだかツボである。
演奏は全部で1時間半くらいだったろうか。結構あっという間であった。初めてだったけど、楽しめた。演奏の前段の落語と、スクリーンに映し出される浮世絵がかなりありがたくて、多分、これがなかったら歌詞の意味がつかめず、初心者にはここまで楽しめなかったかもしれない。敷居を下げる、とっても素晴らしい企画だと思う。
北斎小唄は、今回が5回目だとか。終演後の挨拶で、千紫 巳恵佳さんが「来年もやります!」とおっしゃっていたので、また来年参加したいです。