名前だけ知っていた有名英国人作家、サマセット・モームのスパイ小説。007のようなスパイアクションとは全然違う意味で、とっても面白い小説であった。
久しぶりのブログ投稿。前回記事を上げたのが9/13なので、40日以上も空いてしまったなぁ。元々仕事が忙しかった中、実家で独り暮らしをしている父親が入院してしまい、バタバタとしているうちにすっかり更新が滞ってしまったのである。父は無事退院したし、この機会にと仕事も周りに協力を頼んで整理したので、少し落ち着きを取り戻してきたが、やっぱり色々忙しく、読書量はめっきり減ってしまった。このブログも、更新頻度は落ちそうだけれども、ぼちぼちと無理のない範囲で続けていきたいと思っています。
さて、本書はサマセット・モームが、英国の諜報員だった経験を生かして書いた連作短編小説である。津村記久子さんの「やりなおし世界文学」で「めちゃめちゃ面白かった」と太鼓判を押されていたので、手に取ってみたのである。
モームのことは名前くらいしか知らなかったので、まずスパイだったという事実に驚いた。そして、文豪みたいな人だと勝手に思っていたので、前書きにかかれた言葉が意外であった。少し引用してみる。
事実というのは語り手には向いていない。でたらめな話を始めて、たいがい本筋に入るまでが長く、気まぐれにあちこちに飛んだかと思えば、尻切れトンボになり、中途半端に立ち消えて、きちんと終わらない。面白い状況を作り上げるところまではいくのだが、それを途中で置きっ放しにして、どうでもいい方向に流してしまう。途中で話を盛り上げようともせず、的外れな方向にいってドラマチックな効果を台なしにしてしまう。これこそが小説のあるべき姿だと考えている作家の一派がある。
このあと、上記の「作家の一派」に対する批判が続く。モーム自身は面白い物語を作って、読者を楽しませることを身上としているようなのである。つまり、エンタメ系、大衆小説家を自任しているのだ。私もたまに純文学に挑戦したりもするが、退屈なのは我慢できても難解なのは耐えられない。そういう意味で、このモームの前書きで非常に好感を持って本編に入って行けたのである。
さて、実際読んでみると確かに面白い。しかし、いわゆる超人的なスパイが活躍するハラハラドキドキ系のアクションでもないし、謎解きを主軸とするミステリーでもない。また国家間の政治劇でもない。じゃあ、なんなのか。アシェンデンがスパイ活動の最中で出会った、強烈な個性を持つ人々を描くエピソード小説なのである。
主人公のアシェンデンは、訓練で鍛え上げられたプロのスパイというよりは、作家が副業でスパイをやっている、という感じである。国家のために役に立ちたいという思い半分、小説のネタを探したいという思い半分と言ったところだろうか。そんな彼は、面白い人間に目がないようで、出会った人々を実に深く観察する。
エジプトの王子の横暴な娘二人の家庭教師で、無口で奇抜なファッションのミス・キング。香水の匂いをぷんぷんさせて、男のやりがいは「戦争とカードと女」と言い放つヘアレス・メキシカン。現地に行かず、想像力で最高の報告書をでっち上げて高い報酬を得る諜報員。深く愛し合う、陽気な英国人夫と無口なドイツ人妻。などなど。
正直、この人々の魅力を要約でまとめるのはとっても難しい。おそらく私の文章を読んでも全く伝わらないと思う。彼らの行動、会話、表情やしぐさ。これらの描写を駆使して、奇妙で矛盾に満ちた、それでいて愛すべき人々を描き出すのである。そこかしこにユーモアがまぶされており、それでいて時々切なくもなる。
「前書き」で言っていることと違い、ミステリ小説のような明確な種明かしなく終わるエピソードも実は多い。でも読ませる。語りの力、というのかな。面白かった。






