今年の7月に発売された、倉知淳さんの新作ミステリ連作短編集。謎解きに焦点を当てた、純度の高い本格ミステリ小説だった。面白かった。
今年は倉知淳さんの作品ばかり読んでいる。ここ半年で7冊目なので、自分としては結構なハイペースである。これまではずっと図書館で借りていたが、本書は新作ということもあり、ついに書店で新刊を購入した。これまでだいぶ楽しませてもらっているので、そろそろ売上に貢献したいという思いが半分、「作家の人たち」を読んで、何となく買わないことに後ろめたい気持ちになったというのが半分である。倉知さんの作品に限らず、最近、お気に入り作家の新作はなるべく新刊で買うようにしています。図書館で待たなくていいからね。
本書は4本の連作短編。主人公は、ワトソン役の折本と、ホームズ役の久世。ともにフリーライターである。警察の仕事を民営化すべきという声に押されてやむなく発足した『非正規雇用捜査官制度』を活用し、記事ネタ集めのため一般人として警察の捜査に参加するという設定である。現場の刑事からは、仕方なく応対すべき「お客様」として扱われ、レポート作成のためにいくつか情報提供だけしてお茶を濁そうとしていたところ、久世の天才的推理力で事件そのものを解決してしまうのだ。
世間のニュースに全く興味がなく、浮世離れした言動を繰り返す久世と、比較的常識人な折本のやりとりも面白いが、本書の魅力はやはり謎解き、それもホワイダニット(なぜそれをやったのか、動機)を解くものである。
私も、ミステリを集中的に読み始めたのはここ数年なので、フーダニット(誰がやったのか?)、ハウダニット(どうやってやったのか?)、ホワイダニット(なぜやったのか?)といったミステリ用語を知ったのはつい最近なのだが、ホワイダニットにも二種類あるのだなと分かってきた。
一つは、殺人自体の動機を問うもので、例えば怨恨であるとか、金目当てであるとか、そういったものである。物語をドラマとしてみると、この動機の部分というのが一番面白いのだが、ロジカルな推理のみでは解き明かすことが難しいので、本格ミステリの世界ではあまり重視されていないようである。
もう一つは、殺人のやり方が不可解、なんでわざわざこんなことしたの?というものである。そして、本書の謎解きはこちらにあたる。
例えば、一本目の表題作「犯人は現場に首だけ戻る」。事件自体はシンプルな強盗殺人。被害者は、アコギな商売で成り上がった金持ちの男で、恨みに思っている者は大勢いる。しかし、事件の前、被害者の家に銀行員と思われる男が訪問してくるところが隣家の主婦に目撃されていた。当然犯人はその男と思いきや、その男の生首が、被害者の家の門に晒されていたのである。マスコミは、生首の男を殺害した犯人を「正義の執行人」として騒ぎ立てている。
生首の男は、本当に強盗殺人の犯人なのか。だとすると、生首の男をやったのは誰なのか、といった点も興味深いが、一番の謎は、そもそもなんでわざわざ生首を被害者宅にさらすといったことを行ったのかということ。ホワイダニット。不可解が、探偵役の久世によって極めて即物的に紐解かれていくところが面白いところなのである。
倉知淳さんのミステリ作品は、お笑い方面に振り切った作品や、フェアとアンフェアのギリギリ境目をつくような驚きの大仕掛けを用意している作品も多いのだが、本書は正攻法、直球のミステリ。ミステリの枠の中で、色々なタイプの作品を書ける倉知さんは、やはり手練れだと思うのである。






