落語家・古今亭志ん朝が、四季の風物を様々に語るエッセイ集・・・といっていいだろうか。すごく面白かった、とは言わないが読んでいて懐かしい気持ちにはなった。
最近江戸時代にはまり、その流れから落語に興味が向いた。先日読んだ「古地図で読み解く 江戸東京地形の謎」という本で、「芝浜」「黄金餅」「目黒のさんま」といった、江戸の具体的な地名が出てくる落語が紹介されていて、実際に観てみたくなったのである。
Youtubeで検索した時に、一番上に出てきたのが、本書の著者である三代目・古今亭志ん朝であった。昭和13年生まれ、平成13年没。私の父親(存命)と概ね同世代である。落語の世界ではトップランナーと言ってよい方のようで、名前に見覚えはあったが、恥ずかしながら「知っている」とはとても言えなかった。実際に志ん朝の落語を観てみると確かに魅力を感じる。最初にYoutubeで観たのは「芝浜」だと思うが、女性の演じ方に愛嬌とやさしさがある。実際画面に映っているのは短髪のおじさんなのに、不思議である。
さて、本書は四季折々の様々な「消えゆく日本語」を題材とした小噺を、志ん朝のしゃべり言葉のまま文字にしたような体裁である。共著者の齋藤明氏は、作家・古典芸能評論家で、テレビやラジオの台本を作る仕事もされていたとのこと。お二人の役割分担ははっきりしないが、あとがきによると
本書は、昭和五十三年十一月から六十年三月までの間、NHK・FMで放送された「お好み邦楽選」の台本をベースにして出来上がったものである。
とのことなので、齋藤氏が作った台本を基に志ん朝が語り、それを本にしたものだろうか。邦楽というのはいわゆるJ-POPではなく、小唄とか都々逸とか、そういった日本の音楽を紹介する番組の中ではさまれた噺である。
章立ては季節ごとになっていて、「春は桜にはじまって」「夏の祭は走馬燈」「秋はそぞろに寂しくて」「冬は二つの年の渡し舟」「待たれる春」の全五章。
さて、四十年以上前の時点で「消えゆく日本語」と言われていた言葉は、令和の今の時点でどうだろうか。夏なので、夏の章で出た言葉をいくつか書き出してみる。
- 縁日・・・普通に今も使われていると思う。
- 走馬燈・・・死ぬ間際に記憶が蘇る、という場面で小説では普通に使われている。
- 蛍狩り・・・これは初めて聞いた。狩りということは、蛍を採るのか。
- 吊忍・・・これも初めて聞いた。つりしのぶ。シノブグサを集めたものを軒下に吊るして下に風鈴をぶら下げるのだとか。
- 行水・・・「カラスの行水」のおかげで残っているか
- 渋ウチワ・・・かまどに風を送るための団扇。初めて知った。
- 打ち水・・・子供のころはよく見かけたけど、最近見なくなった。
全体を通じてみると、知らないもの、知っているものそれぞれという感じだった。今の若い方々にとってはどうだろう。
しゃべり言葉で読みやすく、読み通すのに苦労はしないけれど、令和の今、万人におすすめできる書籍ではないかなと思う。笑い話も多いけれど、爆笑できるものではなく、和むなぁという感じ。あと、昔の男女の性別役割の感覚が色濃いので、今読むと少々ドキリとする表現もある。
昔のことに興味があり、そこに情緒を感じられるひと向けだと思う。私はそこそこ楽しめた。あと、解説にもあったけれど、落語家の言葉なので、音読すると気持ちがいい。すごく滑らかにしゃべれるような言葉遣いができているので、話がうまくなった気になれる。錯覚だろうけど。
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