課長風月

疲れたサラリーマンの憩いのひと時

読書「デスチェアの殺人」M・W・クレイヴン

9月に日本で翻訳版が発売されたばかりのワシントン・ポーシリーズ6作目。期待に違わぬ面白さで一気読み。でも今回はちょっとヘビーだったなぁ。

 

※決定的なネタバレはしませんが、内容には触れるので未読の方はご注意ください。

 

ワシントン・ポーが、休暇中にパブで食事をしていたところ、教会の敷地管理をしている男に声をかけられた。アナグマが掘り返した墓の下から、もう一つ別の死体が出てきたという。異常な事件だったが、管轄外のため、ポーは地元の警察に引き継いだ。しかしその五か月後、カルト教団の主催者が石を投げつけられて殺害されるという事件が発生し、ポーはこの事件を担当する。捜査がすすむにつれ、二つの事件のつながりが明らかになってゆく。

 

シリーズも6作目となり、そろそろマンネリ化が懸念されるところだが、このシリーズに関してはそういった心配は無用であった。様々な要素が絡んで複層的に物語が進行して行き、飽きさせない。

 

まず冒頭、今回はなんとポーがトラウマ心理療法士のカウンセリングを受けているところから始まる。これまでの作品でも、ポーがいきなり殺人犯として逮捕されたり、エステル・ドイルが殺人の容疑者となっていたりと、冒頭から驚きの展開で引きつけてきたこのシリーズだから、いつも通りではある。でも、手を変え品を変え、よく思いつくなぁ。物語は、ポーがカウンセリングを受けながら、発生した事件を振り返っていくという形で進んでいく。

 

今回は捜査陣に一人新キャラが出てくる。会計検査員を自称するライナスという男である。この男、どうも何か会計検査とは別の目的を持っているらしい。警戒したポーは、ライナスに「スヌーピー」とあだ名をつけて、嫌がらせばかりする。ポーの大人げなさが笑いどころではあるけれど、このライナスも全くへこたれず、しつこくついてくる。彼の目的は何なのか?これも一つ読ませどころである。

 

笑えるシーンも多々あるけれど、本作は本筋の事件の方がとにかく悲惨である。それは宗教上の狂信者たちが引き起こしたもの。その陰惨さ、救いのなさから目を離せず、つい先へ先へと読んでしまうのだが、正直読んでいる最中は、結構精神が削られた。ポーがカウンセリングを受けるはめになっているのも当然だと思わされてしまう。

 

しかし、最後は決して暗いままでは終わらない。このシリーズの特徴でもあるユーモアが、最後の最後で飛び出して、それが救いとなってくる。笑いながら、じんわり目頭が熱くなるような。そこがとっても良かった。

 

シリーズ間で優劣をつけるつもりはないけれど、好き嫌いでいうと一番好き、ではないと思う。今回は、事件の衝撃度に焦点が当たっている感じだけれど、個人的には謎解きの面白さに焦点が当たっているものが好き。三作目の「キュレーターの殺人」や五作目の「ボタニストの殺人」のみたいな。でも、面白いことは間違いないです。

 

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