言わずと知れた、池波正太郎さんの代表作の一つ。面白かった。
江戸中期に活躍した火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)の長官、長谷川平蔵が主人公となるこの有名シリーズ。テレビドラマにもなっていたので、一定の年齢以上の方であれば少なくとも名前くらいは聞いたことがあるのではないだろうか。
江戸時代が舞台の警察小説、とでも言えばいいのだろうか。当時の警察に相当する「町奉行」がどちらかというとお役所的な組織であるのに対し、火付盗賊改方は放火や強盗などの凶悪犯罪者を捕まえる実行部隊だったようである。
主人公の長谷川平蔵宣以は、四十二歳でこの火付盗賊改方の長官に就任する。若いころは「本所の銕」と呼ばれて放蕩三昧、評判の良くない男であったが、今ではすっかり落ち着いて、部下たちに慕われている。人情もあり、かつて盗賊として捕らえられた人物が、平蔵の人柄に惚れて火付盗賊改方の「狗」となっている。でも、捜査は厳しく、時には苛烈な拷問で口を割らせることも辞さず、江戸の犯罪者たちからは「鬼平」として恐れられている。
基本的には一話完結型の短編集である。全体を通じた主人公は平蔵で、その人間性の魅力がシリーズを束ねているものの、各話の主役はむしろ、捕らえられる側の盗賊たちである。この盗賊たちの描き方が一様ではなく、そこに本作の一番の面白さを感じた。
例えば、本作で一番好きな短編「老盗の夢」。
「蓑火の喜之助」は、今は年老いて隠居しているが、かつて大盗賊として鳴らした男であった。そのやり口は、金持ち以外からは盗らず、決して人を殺さず、女を犯さず。その盗賊としてのモラルの高さ?が多くの盗賊仲間の尊敬を集めていた。しかしある日、京の茶屋にて、茶汲み女のおとよと会ってしまう。おとよは、所謂大女で、喜之助は大女に目がないのであった。おとよを囲うお金欲しさに喜之助は大きな盗みを計画するが、急遽雇った今時の盗賊たちは、喜之助のやり口に従う気は毛頭なかった・・・
盗賊なんだけどモラリストで、でも女性に目が眩んで失敗して・・・みたいな一貫性のなさがなんとも人間臭く憎めない。
全体を通じてみると、人情は流れていても、決してお涙頂戴にはならず、人間の矛盾や運命の皮肉を描く作品が多かった印象。
全二十四巻もあるが、短編なので連続で読まなくてもよさそうなのがうれしいところ。少しずつ続編も読んでいきたい。
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