万城目学さんの長編小説。今度の舞台は滋賀。これまで読んだ万城目作品同様、とっても楽しかった。
滋賀県の湖東側にある、石走(いわばしり)。そこは、琵琶湖から不思議な"力"を得た日出(ひので)一族の本家が住む城下町だった。主人公日出涼介は、湖西に住む分家の息子。"力"の修行のため、親元を離れ春から石走高校に入学する。携帯電話の通じる現代なのに、城に住む日出本家の生活は非常識そのもの。涼介と同い年で本家の跡取り息子である淡十郎。「グレート清子」の異名を持つ姉の清子。そして涼介の同級生で、日出家のライバル棗家の跡取り息子、棗広海。この四人の若者を中心に、ある日、日出一族と棗一族に訪れた危機を描く。
万城目学さんの小説を読むのは関西三部作の「鴨川ホルモー」「鹿男あをによし」「プリンセス・トヨトミ」に次いで4作目。現代的な青春小説でありながら、歴史とファンタジーを織り混ぜて唯一無二の世界観を作り出すその作風が大好きなのだが、本書もまたその作風に沿った作品であった。
まず面白いのが、日出本家のありえない生活ぶりである。冒頭に書いた"力"を使って巨万の富を築いた日出家は、江戸時代に築城されたという石走城の本丸御殿で普通に生活しており、学校には堀から通じた水路を通って舟で行くのである。
食事のシーンも豪華というか、無駄にお金を使っている。その日の一食のために寿司カウンターを設けたり、流しそうめんの竹筒と水流を拵えたり、豆腐みたいな?高級フレンチトーストが出てきたりするのである。(どうでもいいが、私は甘党なのでこのフレンチトーストを食べたくてたまらなくなった)
また、本丸御殿の裏には、かつての天守閣跡が残る山が聳えている。涼介は、頂上の天守台まで登った先に、琵琶湖が一望にできる場所があることを見つけ、そこでトランペットの練習をするシーンがある。本書の表紙絵にもなっているこの場所の描写がとても気持ちよさそうで、うらやましくなってしまう。こんな観光名所にでもなりそうな場所を私有しているというのだから、ただの金持ちではなく、途方もなく歴史ある金持ちなのである。ある意味これは、歴史好きの万城目さんの願望を文章にしただけなんじゃないか、という気もしてきた。
ちなみに、ここで涼介が吹いていた曲は本文に明記されていないものの、『天空の城ラピュタ』でバズーが吹いていた曲らしい。この辺の選曲の気取らなさというか(ちょっと昔の、かもしれないけれど)男子高校っぽさもいいところである。
なお、石走というのはどうやら架空の街のようで、石走城も実在はしないらしい。石田三成が居城としていた佐和山城の遺構を、彦根城と分け合って作られた、みたいな解説があり、てっきり実在するのかと思った。この辺は、それっぽい嘘をつくためのディティールなんだろうな。こういうところも好きなところである。
本筋にはほとんど触れないまま小ネタばかりで長くなってしまった。小説本編は、序盤はゆったりした展開だけれど、中盤以降からどんどん面白くなってきて最後の方はほとんど一気読みであった。
ただ、主人公涼介やライバル・棗のキャラがちょっと弱く、残念ながらこれまで読んだ万城目作品を超えるものではないかなぁと思ってしまった。万城目さんの関西三部作が傑作すぎるのかもしれない。ただ、それでも充分楽しめたし、500ページ超の長さを感じさせない佳作だと思う。
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