知念実希人さんのホラー小説。とても面白く、続きが気になって一気に読んでしまった。グロテスクな描写が多いので、好き嫌いは分かれると思う。私は・・・あんまり好きじゃないかも。
※以下、ストーリーの核心には触れませんが、内容には触れますので未読の方はご注意ください。
北海道の美瑛町から車で一時間程度の山奥に、黄泉の森と呼ばれる聖域があった。地元民の間では禁域で、そこに這入ると「ヨモツイクサ」と呼ばれる怪物に内蔵を貪り喰われるという伝承があり、現代に至っても恐怖心は消えていなかった。
ある日、黄泉の森付近のリゾート開発工事に従事する作業員複数名が忽然と姿を消す。外科医の佐原茜は、7年前に家族が黄泉の森近くで行方不明となっており、この事件との関連性を疑う。そして、行方不明の姉の婚約者であった刑事・小此木と共に調査を開始する。
知念実希人さんのお名前は存じ上げていたものの、作品は読んだことがなかった。図書館で冒頭数ページめくってみて、地域信仰みたいな少し民俗学っぽい題材の話かな?と思い借りてきたが・・・実際はグロテスク表現多数のバイオホラーであった。後で調べてみると、知念さんは現役の医者で、リアルな医療ミステリを得意としているとか。そういう意味で、本書は異色作なのかもしれない。
筆力は素晴らしい。文章だけなのにイメージを喚起され、まるでそこにあるような気がしてしまう。でも、その素晴らしい筆力で描かれるのは、内臓の質感であったり、人体の腐敗描写であったり、残虐なヒグマによる土饅頭であったり、おぞましい虫なのである。ぎゃー。特に外科手術のシーンは圧巻のリアリティ。さすがお医者様なのである。
ストーリー展開も巧みである。本書は単なるホラーではなくミステリーの要素もあり、読んでいると謎の真相が知りたくてたまらなくなる。その謎をおっかけることで物語の先へ先へと引っ張られ、ページをめくる手が止まらない。私は普段、小説を一冊読むのに3~4日はかかるのだが、本書は2日程度で読んでしまった。中年は疲れやすいのであんまり根を詰めたくないんだけどなぁ。気が付くと読むことに集中しすぎていることがしばしばあった。それぐらい引き込まれた。
ただ、残念なことに主人公はあまり魅力的に感じなかった。主人公の茜は、家族全員が行方不明となった事件に囚われているという設定なのだが、肝心の家族の描写が殆ど無い。姉に強い思い入れを抱いているようなのだが、姉の人となりもエピソードほとんど触れられないので、茜に深く感情移入できないのである。ここが魅力的であれば、終盤の展開はもっと切なく美しいものになるはずなのだが、そうはならなかった。
そういう意味で、面白かったけど、深く感動する作品ではなかった。惜しい。ただ、グロテスクシーンのインパクトで記憶に残る作品にはなりそうだ。ぎゃー。
