様々なところで高評価を目にするワシントン・ポーシリーズの1作目。一言でいうと、まあとにかく面白い。よっぽどミステリーが嫌いとかでなければ、誰にでも自信をもってお薦めできそうな作品だった。
国家犯罪対策庁(NCA)の元警部ワシントン・ポーは、ある事件での過失により停職処分となり、イギリス北部のカンブリア州で隠遁生活を送っていた。そこへ、元部下であるステファニー・フリンが訪れる。フリンは、カンブリア州のストーンサークルで発生している連続殺人事件の被害者の胸に、「ワシントン・ポー」の名が刻みつけられていたことを告げ、ポーに捜査への参加を求める。
ワシントン・ポーシリーズは、原著は既刊6冊、翻訳は5冊出ている人気のミステリーシリーズ。数か月前にブックオフでたまたま一作目の本書を見つけて購入したものの、図書館で借りた本が溜まっていたこともありしばらく積んでいたのである。
そうこうするうちに、うちの奥様が先に読み始めたのだが、力強く読み進め、本書と続編の「ブラックサマーの殺人」は既に読了。今は三作目の「キュレーターの殺人」に来ている。奥様は、つまらないとあっさり見切りをつけて途中で放り出す人なので、これは期待が持てそうだ。
読み始めると、本作がいたってオーソドックスな刑事ものであることに気が付く。ワシントン・ポーは直観で捜査を進めていくタイプの刑事のようである。組織的に、外堀を埋めるようにしながら犯人に至る、現代的な捜査方法とは水が合わない。当然、ソリが合わない上司も多い。また、不正を許すことができない。特に強者が弱者を嬲り者にしたり、搾取したりすることに対する憤りの強さは、ポーの根源的なもので、上司の命令や、時には法を無視してでもこれを正そうとする。自らの立場には一向に頓着せず、ただただ不正を晴らすことに執着する。こういった刑事像の小説やドラマはそれほど珍しくはなく、正直新鮮味はない。
でも、面白い。ページ数は560ページほどでかなりの長編と言ってよいが、冗長に感じられるところが全くない。ポーと一緒に、少しずつ明らかになっていく事件の真相を追っかけているうちにいつのまにかページが進んでいるといった感じである。
キャラも良い。ポーももちろんいいのだが、コンビを組むティリー・ブラッドショーという女性分析官がとても、とても良い。IQ200の天才だが、オタクで世間知らず、周りの人の感情が読めず時々言わなくていいことを言ってしまい、職場では孤立していじめにあっている。どう考えても叩き上げ刑事のポーとは正反対なのだが、不思議なくらい相性が良く、この二人ならどんな難事件でも解決できるんじゃないかと思ってしまう。親子関係といってよいような、二人の信頼関係が築かれる過程を見るのも本書の醍醐味の一つである。なお、ポーとティリーの関係は、2000年代の名作ドラマ「24」のジャックバウアーとクロエ・オブライエンを思い出した。そういう意味でも少し既視感はあったのだが、クロエがあくまでちょっと面白いサブキャラなのに対し、ティリーの印象の強さは主役のポーに引けを取らない。
そして事件の真相とその後の結末。あんまり書くとネタバレになってしまうので詳細は避けるが、これも、決して目新しいものではなかった。でも、不正義に対して抱く怒りと、それを晴らそうと尽力するポーの行動は素直に感動的であり、読後の満足感を与えてくれる。
ということで、本作はオーソドックではあるが、とても面白いミステリーだった。例えるなら、とびきりうまいとんかつ定食とでもいおうか。とんかつ・ソース・キャベツ・味噌汁・ごはん。いつもと変わらないおなじみの面子。でも、その一つ一つのレベルが高く、なおかつお互いが高いレベルで調和している。そんな小説だと思った。
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