上橋菜穂子さんの守り人シリーズ最終章、天と地の守り人を読んだ。やっぱり名作。感動した。
※前の巻含め、ネタバレ気にせず感想書くので未読の方はご注意ください。
前作「蒼路の旅人」は、南の強国・タルシュ帝国の捕虜となったチャグムが、新ヨゴ皇国を枝国とするための駒として使われることを避けるため、わざと海に落ちて死を偽装するところで終わっていた。かなり気になるところで終わっており、前回のブログも「続きが気になってしょうがない」で締めているのだが、なんだかんだと溜まった図書館本を消化しているうちに、1か月以上たってようやく読めたのである。
本作「天と地の守り人」は三部構成で、合計で1000ページ近い大作なのだが、4日程度で全部読めてしまった。これは月に6~7冊という私の普段の読書ペースからするとだいぶ早いのである。児童書なので少々字が大きいというのはあると思うが、やはり物語の吸引力によるところが大きいと思っている。
第一部のロタ王国編は、行方不明となったチャグムを探してバルサがロタ王国をさまよう物語である。バルサがチャグムを心配する気持ちが胸に痛いほど伝わってくるのである。途中、チャグムが残した置手紙をバルサが読むシーンが本書で一番好きなシーンである。凄腕の用心棒でもともと寡黙なタイプのバルサが、チャグムからの手紙を読んでただただ涙を溢れさせるのである。ここは泣けたなぁ。
第二部のカンバル王国編は、第一部でついに再開を果たしたバルサとチャグムが、バルサの故郷であるカンバル国で旅をする。二人で旅をするのは第一巻の「精霊の守り人」以来だったはずで、長くシリーズを読んできた読者にうれしい展開である。目的はカンバル王に、ロタ王国との同盟及び新ヨゴ皇国への援軍を一刻も早く依頼することである。そのため、チャグムも少しピリピリしておりシリアスなシーンが続くのだが、時々二人の母子のような和やかなやり取りにほっとするのである。
そして、第三部の新ヨゴ皇国編では、バルサと別れ、ロタ王国とカンバル王国の援軍を引き連れたチャグムが、新ヨゴ皇国に帰還を果たすのである。もちろん、チャグムは新ヨゴ皇国にとって救世主のような存在ではあるのだが、もともと父である帝との反目があったため、ことはそう簡単ではない。果たして父はチャグムを受け入れるのか?それともやはり親子で争うのか?といったあたりが気になるところだったのだが、意外にもそのどちらでもなかったのである。タイトルの「天と地」にもかかるこの場面は、聖なる存在として現実の世を生きることとは、どういうことなのかを見せてくれる。ここは、文化人類学者でもある上橋さんの洞察なのかなぁと、勝手ながら推測した。
第三部で私が最も印象に残っているのは、草兵として戦場の最前線に駆り出されることになったタンダである。タンダは心優しい呪術師で、当然戦場で戦った経験もなければ、兵士として訓練されてもいない。そんな彼が全く現実感を持てないまま戦闘が始まり、敵兵の攻撃にあい、何もできないまま飲み込まれてしまうさまは戦争の恐ろしさをリアリティをもって伝えてくれる。負傷した腕が壊死しており、命の危険があったタンダ。その腕をバルサが切り落とす場面は凄絶でありながら、バルサのタンダに対する強い思いが伝わってきて、涙なくしては読めないのである。
また、本作は戦争という行為の無意味さ、馬鹿らしさも伝えてくれるものだった。結局戦争を終結させたのは、本シリーズでことあるごとに出現した別世界「ナユグ」で起きた<山の王>の婚礼なのである。それにより気温が上がり、雪が解けて雪崩を誘発し、青弓川が氾濫した結果、数万の強兵を誇るタルシュ帝国の軍勢は、あっという間に飲み込まれてしまった。人間の思惑や事情など何一つ考慮されないのである。こういった、人間のコントロールの及ばない何かのことを考えると、人同士で破壊しあったりすることが、本当に愚かしいことだと思えてくる。
長くなったのでこの辺にしておく。全10冊読み終わったわけだが、外伝や短編集なども出ているみたいなので、またどこかで読んでみたい。あと上橋さんの別の作品も。発表順に読むなら、次は「獣の奏者」かな。
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