課長風月

疲れたサラリーマンの憩いのひと時

読書「水族館の殺人」青崎有吾

最近お気に入りの作家、青崎有吾さんのミステリー、裏染天馬シリーズの二作目。前作「体育館の殺人」同様、明るく楽しい作品だった。

 

※決定的なネタバレはしませんが、内容には触れるので未読の方はご注意ください。

夏休みの八月。風ヶ丘高校新聞部は、取材で横浜市の丸美水族館を訪れていた。一般客が立ち入りできないバックヤードにも入れてもらい、順調に取材を続けていた新聞部だったが、展示スペースでレモンザメの説明を館長から聞いていた際、異変が起きる。水槽に突然男が一人落ちてきて、サメに胴体を食いちぎられたのである。死んだ男はイルカ担当の飼育員・雨宮。サメ水槽の上部にあるキーパースペースは血まみれで、雨宮は殺された後で水槽に落とされたことがわかる。その時バックヤードにいた容疑者11人には、該当時間、全員にアリバイがあった。捜査に難航した神奈川県警捜査一課の仙堂は、「体育館の殺人」を解決した天才高校生、裏染天馬を呼び出した。

 

本書は、裏染天馬シリーズの二作目。2013年の発刊で、青崎さんにとってもデビュー後二冊目の単行本のようである。裏表紙の著者紹介だと、この頃はまだ「現役大学生」。改めて思うけどすごい才能だなぁ。

 

今回も、前作同様、明るく楽しい作風である。アニメオタクのダメ人間・裏染天馬と、なんだかんだと事件に巻き込まれてしまう袴田柚乃のコンビのかけあいが楽しく、終始笑いながらの読書となる。犯行現場は血みどろだが、凄惨描写を強調しているわけではないので読んでいて胸が悪くなるとか、恐怖に震えるといった感じはない。

 

前作と比べると、シリーズ化を意識したのか事件の本筋とは関係のない、サイドストーリーが充実している。柚乃が卓球で試合をしているシーンもあるし、前作でも出てきた卓球部部長の佐川奈緒と、他校の関東最強女子卓球部選手とのライバル関係なんかも描かれる。そして、裏染天馬の妹が出てきて、何やら複雑そうな家庭の事情も見えてくる。そういう意味で、作品世界の広がりを感じさせる作品になっており、楽しみ方が増している印象である。

 

そして、前作では裏染が言及するアニメ・漫画ネタがほとんどわからなかったのだが、本作はついていけるものがあった。「ギャートルズ」とか「トイレット博士」とか「めぞん一刻」とか・・・私はわかるけど、明らかに青崎さんが生まれる前の作品だよなぁ。少々上の年齢層にも配慮してくれたのかもしれない。

 

もちろん、本作の核はやはり本格推理であり、その緻密さは前作よりパワーアップしていると感じる。本当に些細なところを突破口として犯行時の犯人の行動を明かしていく裏染の推理過程は素晴らしかった。

まあ、前作も自分としては粗など見つからず鮮やかだなぁと思っていたのだが、鮎川賞審査員であるベテラン作家たちからはその甘さを指摘されていた。本作は解説もついていないので玄人目でどうなのかわからないが、少なくとも私の目で見ると、論理的な欠陥もなく非常にうまくできていると思う。動機からではなく証拠から論理を積み上げていくその過程はやはり「平成のエラリー・クイーン」。本家エラリー・クイーン読んだことないけど・・・。

まあ、ミステリ素人だし、出来がどうこうより楽しめればそれでいい。とても面白かった。

 

次作の「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」も既に手元にあり、ほどなく読み始める予定である。楽しみ。

 

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